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いま聞きたいQ&A

投資における時間分散について、購入時だけでなく売却時に留意すべき点があれば教えてください。

バブル崩壊後の日本株は積立投資に適していた

すでによく知られているように、積立投資による時間分散がプラスの効果を発揮するのは、例えば投資期間中に投資対象の価格がいったん大きく下がって、その後に上がるようなケースです。典型的な例として、バブル崩壊後の日本株を挙げることができます。

東証株価指数(TOPIX)は、1989年12月18日に2884.80ポイントの史上最高値を付けた後、大きく下落して長期低迷を続けました。そこから値を戻してきたとはいえ、配当込みベースで見ると、今年(2020年)6月末時点でピークより2割低い水準に過ぎませんでした。しかし、仮に89年末からTOPIXに連動する投信を毎月積み立てたとすると、同じく今年6月末の時点で資産は累計投資額より6割も増えていた計算になります。

積立投資では価格が下落して相対的に安いときにも定額で購入し続けるため、投資期間の全体を通して平均購入単価が下がっていきます。最終的に投資対象の価格(時価)が平均購入単価を上回りさえすれば利益が出るため、ある時点での価格が投資開始時の価格を下回っていても、運用成果として見れば意外と大きなリターンが得られることもあるわけです。

一方で、価格が「当初上がってその後下がるケース」や「一本調子で上がるケース」では、積立投資が逆にアダとなる場合もあります。価格の上昇局面では購入量は相対的に少なくなるものの、平均購入単価は高止まりするため、「高値づかみを避ける」という時間分散の役割が十分に果たされません。

また、価格の右肩上がりが続くと、投資を開始した当初の価格が全期間を通じて最も安くなる可能性があります。その場合、積み立てによる時間分散は「価格の高い時期にもわざわざ購入すること」を意味します。当然のことながら、投資開始時の底値で一括購入した方が最終的な運用成果は大きくなります。

こうした傾向を踏まえて、できるだけ積み立てに向きそうな投資対象を選ぶという方法もありますが、値動きはあくまでも結果論であり、必要以上にこだわっても仕方がないでしょう。時間分散については、万能ではないことを前提に「やらないよりは、やった方がマシ」と割り切るぐらいの姿勢で臨む方がいいかもしれません

ニーズによって使い分けたい売却時の時間分散法

売却時における時間分散の方法としては、売却の単位によって「定額売却」「定量売却」「定率売却」という3種類が考えられます。

「定額売却」では、売却の時期を分散することで、資産の全額を価格が安い時に売却してしまうリスクを軽減する効果が得られます。毎回同じ金額が手元に入るという分かりやすさもある半面、価格変動に合わせて売却量が増減するため、タイミングを計ってもいないのに、結果として価格が安い時ほど多くの資産を売却してしまう難点があります。

「定量売却」では、毎回の売却時に得られる金額は価格変動によって変わりますが、資産を売り切る時期を事前に確定したい場合には便利な方法と言えます。投信ならば毎回同じ口数ずつ売ることになるため、例えば60万口保有している投信を毎月1万口ずつ定量売却する場合、価格がどのように変動しようとも、5年間で投信をすべて売り切るという計算が成り立ちます。

ちなみに、投信を定額売却する際の毎回の売却量は「売却金額(定額)÷基準価額÷1万口」、投信を定量売却する際の毎回の売却金額は「売却口数(定量)×基準価額÷1万口」という計算式で、それぞれ求められます。

「定率売却」は、資産残高の一定割合ずつを取り崩していく方法です。例えば毎年4%ずつ定率で引き出し、同時に年率2~3%を目指して運用するという具合に、資産を取り崩しながら運用を続けることで資産寿命を延ばす効果が期待できます。

基本的な考え方として、数年後などの決まった時期にある程度まとまった金額を使うことが確定しているような場合には、保有資産の一部を定額売却や定量売却で取り崩す方法が向いているのではないでしょうか。現役世代にとっての教育費や住宅資金などがこれに該当します。

保有資産を老後の生活費に充てる場合には、時間分散の考え方にさらなる工夫を加える必要がありそうです。フィンウェル研究所の野尻哲史所長は、60歳以降の期間を前半と後半に分けて、それぞれで資産の取り崩し方を変える方法を提案しています。具体的には、前半の60~74歳では定率売却によって必要な資金を確保しながら資産の延命を図り、後半の75歳以降は運用をストップした上で生活費に充てる分を定期的に定額で引き出します。

売却時の時間分散は、自分のやり方ひとつで最終的に得られる金額や資産寿命が変わってしまう可能性があり、かえって難しいと感じる人もいるかもしれません。ただ、購入時に比べると、売却時の時間分散を実践したことがある人は少ないのではないでしょうか。購入時と同様に万能ではありませんが、自分自身でできる保有資産への働きかけのひとつとして、試してみる価値は高いように思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。