日本における投資信託の利用状況と、そこから見えてくることを教えてください。(前編)
投信をコスト重視で選ぶ動きが広がっている
投信評価会社の三菱アセット・ブレインズによると、日本の投資信託市場では2019年末にパッシブ投信の純資産残高(確定拠出年金やラップ口座の専用商品は除く)が50兆9500億円となり、初めてアクティブ投信を上回りました。パッシブ投信とは日経平均株価や米国ダウ工業株30種平均など特定の指数に連動するタイプの商品を指し、アクティブ投信とはファンドマネージャーなどが独自の調査や判断によって投資銘柄を選別するタイプの商品を指します。
パッシブ投信の純資産には、日銀が量的金融緩和の一環として購入した約24兆円のETF(上場投資信託)も含まれますが、その分を除いても過去5年間で純資産残高は7割増加しています。このようにパッシブ投信の需要が急速に高まりつつある要因としては、若者や現役層を中心に投信をコスト重視で選ぶ動きが広がったことが挙げられます。
投信の利用に当たって投資家が負担するコストの一つに、信託報酬があります。
投資信託協会が公表している「投資信託の主要統計等ファクトブック」によると、20年7月末現在、公募追加型の株式投信における信託報酬の平均はアクティブ型が年1.16%、インデックス型(パッシブ投信)が年0.43%となっています。
インデックス型が指数への連動を目指して機械的に運用するのに対し、アクティブ型は一般に企業調査などで運用にかかる費用が高くなりやすく、その分、投資家への費用転嫁も大きくなる傾向があります。さらにインデックス型の株式投信ではここ数年、運用会社による信託報酬の引き下げ競争が激化しています。最近では日本株や先進国株に投資するタイプで年0.1%台、新興国株に投資するタイプでも年0.2%台という超低コスト投信が増えてきました。
信託報酬は投資家が投信を保有している期間中、毎日継続して負担するコストなので、運用期間が長期になるほど、それが最終的な運用成果に及ぼす影響は大きくなります。実際に1990年1月から今日までの約30年間、先進国株指数(*)に連動する投信に月3万円ずつ積み立て投資を行ったと仮定すると、信託報酬が0.1%の場合と1%の場合では、同じ投資対象でもコスト分だけで運用成果に600万円近くの差がついてしまいます。
(*)先進国株指数=MSCI KOKUSAI、円ベース、配当込み
アクティブ投信は長期では市場平均に勝てない?
そもそもアクティブ投信は、ファンドマネージャーが自らの運用力を駆使して市場平均を上回る運用成績を目指す、というのがうたい文句になっています。だとすれば少々コストが高くても、それを相殺するだけの高いリターンを残してくれればいいと考える人もいるかもしれません。
しかしながら、19年までの5年間で投信の運用成績をみると、日本でも米国でも7割以上のアクティブ投信が市場平均に負けているというデータがあります(S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズ調べ)。市場平均を各種の指数と言い換えるなら、いわばアクティブ投信の7割以上がパッシブ投信に負けていることになるわけです。
投信では信託報酬以外にも、銘柄を売買する際の手数料や外貨建て資産の保管費、監査報酬などが運用の全期間を通してかかってきます。信託報酬とこれら諸費用の合計は投信の「実質コスト」、実質コストから信託報酬を差し引いたものは「隠れコスト」などと呼ばれます。
19年12月末時点で株式投信(ETFを除く)について隠れコストの平均値を比較すると、投資対象が日本株、先進国株、新興国株のいずれにおいても、アクティブ投信の方がパッシブ投信より大きくなっています。アクティブ投信では頻繁に株式銘柄を売買するケースが多いため、どうしてもコストがかさみがちです。運用の巧拙という基本的な問題もあるでしょうが、加えてこうした高コスト体質もアクティブ投信が市場平均に負けやすい一因と考えられます。
一方で、逆に見れば3割近くのアクティブ投信は市場平均に勝っているのだから、投資家がそれらを選んで購入すれば問題ないと考えることもできるでしょう。ただし、この考え方にも死角があります。
投資助言会社イボットソン・アソシエイツ・ジャパンが米国のアクティブ型株式投信について調査したところ、例えば20年間の運用期間中、最初の10年間で市場平均に勝った株式投信が、次の10年間も市場平均に勝つ事例は非常に少ないことが判明しました。これには市場環境や運用規模の変化、運用担当者の交代などが影響しているようですが、いずれにしても投資家が長期にわたって市場平均に勝ち続けるアクティブ投信を選ぶのは困難であることが分かります。
ここにきてパッシブ投信の需要が高まっているのは、若者や現役層など比較的経験の浅い投資家が、将来的に大きく勝つというよりは、むしろ相対的に負けにくい資産運用を志向していることの表れなのかもしれません。パッシブ投信に積み立て投資が利用されるケースが多いのも、自分のできる範囲内で「負ける確率」を低くしたいという気持ちの反映のように思われます。
さて、それでは今あえてアクティブ投信を選ぶという行為は、現実的ではないのでしょうか。実はそうとも言い切れない部分もあります。次回はその話を中心に、引き続き投信の利用状況を検証してみます。