近い将来に、世界的な景気後退やバブル崩壊は起きるのでしょうか?(中編)
債券市場では“異常値”が続出している
資産バブルは一般に、「資産価格がファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から想定される適正水準を大幅に上回る状況」などと定義されます。もう少しくだけた言葉で表現するならば、「ある資産がリスクとリターンの関係からみて通常では考えられないほど買い込まれた状態」といったところでしょうか。
この定義にピタリとあてはまるのが、債券市場の現状です。世界各国でマイナス利回りの国債が増えていること自体が異常といえますが、それ以外にも通常では考えられないような“異常値”が続出しています。例えば、償還までの期限が100年にも及ぶ「100年債」の人気ぶり。
オーストリアが19年6月にユーロ建て100年物国債を発行した際には、発行額の5倍の需要が集まりました。同国が最初に100年債を発行した17年当時の利回りは2.1%でしたが、今年の追加発行時には1.2%台まで低下しています。一般論として投資期間100年に見合う利回りとは思えませんが、信用格付けが「ダブルAプラス」と高く、なおかつプラスの利回りが残る先進国の債券として希少性が評価された格好です。
しかしながら、償還までの残存期間が長いほど金利動向によって価格が大きく振れやすいうえに、発行体の信用リスクも長期にわたって負うため、リスクが大きいというのが債券投資の常識です。ましてや100年後ともなると、世界がどうなっているのかすら想像がつきません。
アルゼンチンが17年に発行した100年債も、発行時の7.9%という利回りが人気を呼びました。しかし、19年8月の大統領予備選挙後に政局の不透明感が強まり、債券価格は半値以下に下落しました。同国は政治・経済の安定性に欠ける新興国であり、過去に何度もデフォルト(債務不履行)を繰り返した「前科」も有名ですが、先の価格急落では米国の有力な運用会社が大損失を被っています。この一件など、すでにバブルの影響が表れ始めているとみていいのではないでしょうか。
異常値という点では日本の債券も例外ではありません。トヨタ自動車グループで販売金融などを手がけるトヨタファイナンスは、一般企業の社債としては国内初となる利回り0%の普通社債を10月25日に発行する予定です。引受主幹事の証券会社によると、発行額の2倍の申し込みが集まったもようです。
消費者金融大手のアイフルは6月に、公募社債としては国内初のハイイールド債(低格付け社債)を発行しました。ハイイールド債は信用格付けが投機的等級(ダブルB格以下)に分類される債券で、アイフルが日本格付研究所から取得した格付けは「ダブルB」となっています。日本では元来、デフォルトのリスクを極端に嫌う投資家が多いといわれますが、運用難から風向きは変わりつつあるようです。
デフォルトサイクルを未経験の投資家が多い
ハイイールド債の本場といえば米国です。SMBC日興証券によると、米国では19年1~9月にハイイールド債の発行額が2,070億ドルと、前年同期比で約3割も増加しました。米国社債市場に占めるハイイールド債の割合は2割近くに上っています。
ところがここにきて、気になる動きが出てきました。シェアオフィス「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーや小型アクションカメラの「GoPro(ゴープロ)」など、人気企業が発行したハイイールド債の価格下落が相次いでいるのです。投資家による債券の選別が進んできたと見ることもできますが、そもそも利回りが相対的に高ければ企業の業績や信用力に関係なく債券が買われてきたこれまでの状態が異常だったともいえます。
信用格付けがダブルB格以下の企業は、景気が悪化するとデフォルトに陥る可能性が高まるため、投資家は株式投資家以上に景気後退の兆候に敏感といわれています。そのためハイイールド債は株価急落前に価格が下がることが多く、金融市場の危機をいち早く知らせる「炭鉱のカナリア」の異名を持ちます。
カナリアが本格的に鳴き始めた際に懸念されることは何でしょうか。
複数の市場関係者の話を総合すると、問題は大きく分けて2つあります。ひとつは、世界中の投資家が現時点でリスクを抱え過ぎていること。前述したように、ハイイールド債をはじめとする社債市場は景気後退の前後に「デフォルトサイクル」を迎えますが、こんにちでは、そのサイクルを未経験の投資家が多いといいます。国債のマイナス利回りが増えた過去10年ほどのあいだに、少しでも高い利回りを求めて社債投資に手を染めた投資家が多いからです。
もうひとつは、流動性低下の問題です。2008年に発生したリーマン・ショックと金融危機への反省から、世界の金融機関は投資や自己資本に対する規制を強化し、バランスシートの縮小を図ってきました。米国の景気後退をきっかけに投資家が一斉にリスク資産を手放すような事態に陥った時、市場に流動性を提供する買い手の役割を金融機関が果たせない可能性は高いといえます。すなわちハイイールド債を含むさまざまなリスク資産において、価格下落に歯止めが効かなくなる恐れがあるわけです。
次回も引き続き、さらに多角的な観点からバブルの現状と将来的な崩壊の可能性について考えます。