近い将来に、世界的な景気後退やバブル崩壊は起きるのでしょうか?(前編)
債券の逆イールドが市場に楽観ムードを招く
このところ市場関係者の間では、将来的な資産バブルの崩壊や金融危機を懸念する声が増えつつあります。その内容を整理すると、ポイントは大きく分けて2つあるように思われます。
一つは、世界経済の減速傾向が日増しに高まってきており、もはや景気後退は避けられそうにないということ。もう一つは、世界的な景気後退を機に起こるであろうバブル崩壊の規模が、長期的な金融緩和などによって市場がゆがめられている分、いっそう大きくなりそうだということです。
当面の問題は、世界的な景気後退がいつ鮮明になるのかという点でしょう。今日の世界経済はここまで米国がけん引してきたことは明らかなので、「米国がいつ景気後退に陥るのか」と言い換えることもできます。これについて正確に予測するのは困難なため、あくまでも過去の事例に沿って推測することになります。
米国の債券市場では2018年12月に長短金利が逆転する「逆イールド」が発生しましたが、今年(19年)8月14日にはこの現象がついに市場関係者が最も重視する10年債と2年債にも及びました。07年以来、実に12年ぶりの出来事です。スイスの金融グループUBSの分析によると、1960年以降に米国で10年債と2年債の利回りが逆転した局面はおおむね6回あり、逆イールドの発生から平均して1年9カ月後には景気後退に陥ったということです。
債券の逆イールドは景気が実際に悪化する前に、利上げの打ち止めや利下げ開始への期待感が高まった段階で発生するのが特徴で、市場は金利低下によるカネ余りから楽観ムードに浸りやすくなるそうです。過去のケースでは、10年債と2年債の逆イールド発生後に米国株は高値まで平均で29%上昇し、その後は景気後退とともに下落へ向かっていきました。
米国の景気後退へ向けて2つの危険信号がそろった
ここで、かつて当欄で紹介した内容を振り返ってみることにしましょう。
米サプライマネジメント協会(ISM)が今年9月3日に発表した8月の米製造業景況感指数は、前月から2.1ポイント低下して49.1となり、3年ぶりに「不況ライン」とされる50を下回りました。同指数が連続して50を割り込むと景気後退入りした可能性が高いと考えられるため、今後の動向を見守る必要がありますが、少なくともこれで逆イールドとともに2つの危険信号がそろったことになります。
- ●過去20年間で米国の利上げが打ち止めになった後、利下げに転じるという局面は2回あった。両局面とも利上げ終了から利下げ開始にいたる平均約1年の期間中に株価が天井を打ち、その後に大きく下落するという結果を迎えた。
FRB(米連邦準備理事会)が最後に利上げを行ったのは18年12月のこと。その後、今年3月には年内の利上げ見送りを発表し、7月末には10年半ぶりの利下げに踏み切りました。この間、7月16日に米国ダウ工業株30種平均は27,398ドルの史上最高値を記録しています。
今回も過去の経験則どおり最終的には景気後退や株価下落に至ると仮定して、ここまでの話をまとめてみると、米国が景気後退に陥る時期は20年9月頃から21年5月頃にかけてが有力といえそうです。10年債と2年債の逆イールドが発生した8月14日に、ダウ平均(終値)は前日比800ドル安の25,479ドルを付けました。そこから29%上昇すると32,800ドル台に乗せる計算なので、こちらの経験則が勝った場合には、米国株はさらに上値を更新する余地があることになります。
いずれにしても、景気の延命を図るべく先進各国は今後も金融緩和や財政出動を繰り返していくことでしょう。そのたゆまぬ努力こそが皮肉にも、金融市場の部分的なゆがみやひずみを増幅させ、将来的に市場の逆回転が始まった際のボラティリティー(変動率)を高めることになるわけです。
例えば国際決済銀行(BIS)が18年9月に発表した分析によると、先進14カ国の上場企業のうち12%が、債務の返済費用を長期にわたって利益で賄えない「ゾンビ企業」にあたるそうです。低金利下で銀行の収益環境が悪化し、高リスクの融資にも踏み込まざるを得なくなっていることや、投資家ニーズの高まりから企業が低格付けでも社債などを発行しやすい環境にあることが影響している模様です。
このような状態で景気が後退局面に向かうと、格下げが増えて借り換えなど資金繰りに苦しむケースが続出し、それが景気をさらに悪化させる悪循環に陥る可能性もあります。一方で、高リスクの投資対象として知られる「レバレッジド・ローン(信用度の低い企業向けの融資)」から資金が流出したり、国際金価格が上昇基調を続けるなど、ここにきて膨張する市場への警戒感を強く意識させるような投資家の動きも目立ち始めています。
次回は引き続き、近い将来にあるかもしれないバブル崩壊について、その背景や可能性を探ってみようと思います。