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いま聞きたいQ&A

近い将来に、世界的な景気後退やバブル崩壊は起きるのでしょうか?(後編)

インフレの心配がなくなった中央銀行

FRB(米連邦準備理事会)が2019年7月末に10年半ぶりの利下げを行ったことについて、一部の市場関係者から興味深いコメントが寄せられています。

例えば、米国の大手資産運用会社ピムコでアジア太平洋共同運用統括責任者を務める正直知哉氏は「今回の利下げ自体は保険的なもので、すぐに景気後退に陥るような状況ではない」と語っています。

また、中前国際経済研究所代表の中前忠氏は、金融政策として何をするのか不透明になったことを指摘したうえで、以下の点を問題視します。「景気の良しあしではなく信用秩序の維持に重点が移っている。再びバブルを膨らませて崩壊を早めることへの懸念が消えないにもかかわらず、少しでもやらないと市場が壊れるのではないかと考え、利下げしてしまった」

これらのコメントから連想されるのは、先進国の中央銀行が金融政策を決定するにあたっての判断基準が変わりつつあるのではないかということです。第2次大戦後の米国における景気後退の多くは、経済の過熱とともに始まりました。インフレが進むとFRBが金利を引き上げて需要を抑え込みにかかり、いわばその帰結として景気後退に陥ったわけです。

そのようなパターンの景気後退はもはや昔話といっても過言ではありません。最近の各国中央銀行はインフレの行き過ぎを懸念するどころか、逆にインフレ目標を達成できずに苦しんでいるありさまです。実質的にインフレの心配がなくなった中央銀行は、必要に応じて利下げや量的金融緩和という形で景気刺激策を打ち出すことにより、経済の減速を一時的にせよ食い止めることが可能になります

こうした中央銀行の「新しい役割」は、意地の悪い見方をするならば、政治家や投資家との結託につながりやすくなります。米国のトランプ大統領のように金融政策を露骨に政治利用しようとする動きもあれば、昨今の機関投資家のように何かというとさらなる金融緩和を催促するような動きも出てくるわけです。米国では19年10月に景気拡大が124カ月目を迎え、過去最長記録を更新中ですが、それも先進各国の金融政策が大きく貢献した結果といえるかもしれません。

バブル崩壊を機に景気後退や不況に陥る?

中央銀行が市場に気前よくお金をばらまくのが常となった世界では、どのようにして景気後退が起こるのでしょうか。かつてのような企業活動の鈍化や経済の過熱よりむしろ、過剰な投融資による金融市場の毀損や自己崩壊が景気後退の引き金になるという見方もあるようです。つまり、世界的な景気後退を機にバブルの崩壊が起こるのではなく、バブル崩壊を機に景気後退や不況に陥るというのが近い将来のメインシナリオかもしれないわけです。

前出の中前氏は、次にバブル崩壊が起こりそうな金融市場の候補として米国の商業用不動産を挙げています。米国では1998年から2007年にかけて、商業用不動産の価格が2倍となり、結果としてバブル崩壊を迎えましたが、その後は09年を底に上昇へ転じて今日までに再び2倍となりました。米国内の銀行による商業不動産向け融資は、12年以降で7000億ドル(約75兆円)にも上っています。米金融大手ゴールドマン・サックスのリポートによると、ニューヨークの商業用不動産の現在価格は07年より42%高い水準にあります。

米国で特に目立つのはオフィス用不動産の値上がりです。IT関連のスタートアップ企業による旺盛なオフィス需要が、価格上昇のけん引役となった模様です。スタートアップ企業とは、革新的なビジネスモデルを掲げて短期間で急成長をめざす新興企業を指しますが、ライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズに代表されるように、成長期待こそ非常に大きいものの赤字体質から脱け出せないケースも多いのが実情です。

シェアオフィス大手「ウィーワーク」を展開する米ウィーカンパニーは、今年9月に予定していたIPO(新規株式公開)の延期に追い込まれました。赤字脱却が見えないまま規模拡大に突き進む経営戦略や、経営者に甘い企業統治のあり方など、上場株を売買する投資家から寄せられた多くの懸念を払拭できなかった格好です。同社はニューヨークやロンドンにおいて民間企業としては最大のオフィスの借り手であり、オフィス用不動産バブルの象徴ともいえる存在です。

こうした新興企業の成長へ向けた投資は、市場にあり余る緩和マネーによって後押しされた側面も強く、今後は金融環境の動向次第でメッキが剥がれてしまう可能性も否めません。中前氏は「金融緩和、不動産、ITの三位一体のバブルはもはや限界にきている」と見ています。

IMF(国際通貨基金)は19年10月に公表した報告書で、「世界的な金融緩和が金融システムのもろさを助長している」と指摘しました。例えば日本を含む主要8カ国において、債務不履行リスクを抱えた企業債務は21年に19兆ドルと社債発行残高の4割に達する恐れがあると推計されています。

次のバブル崩壊は、どうやら企業債務が大きなカギを握ることになりそうです。投融資を行う側も受ける側も、度を過ぎれば身を滅ぼすというのは過去に何度も繰り返されてきた歴史であり、特に珍しいことではないでしょう。ただし、そこに世界中の政府や中央銀行、機関投資家が少なからずかかわるという点で、歴史的な意味を持つ「事件」となるのかもしれません。

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