1. いま聞きたいQ&A
Q

米国で長短金利が逆転したことの意味を教えてください

短期金利は政策に左右され、長期金利は思惑で動く

米国の債券市場で、期間が長めの金利が短めの金利より低くなる「長短逆転(逆イールド)」と呼ばれる現象が発生して大きな話題となっています。今年(2018年)12月3日に、米国2年物国債の利回りが2.82%を付けたのに対して5年物国債は2.81%となり、2007年6月以来11年半ぶりに両者の利回り水準が逆転しました。同日には長期金利の指標となる10年物国債の利回りも2.97%まで低下し、10年債と2年債の利回り差は0.15%と、07年7月以来の狭さになっています。

債券の金利および利回りは通常、元利金の返済が滞るリスクなどを勘案して、期間が長めのものほど高くなります。21世紀以降では00年と05~07年に同様の逆イールドが発生し、いずれのケースでもその後、ある程度の時間をおいてから米国は景気後退に陥りました。そのため長短金利の逆転現象は先行きの景気後退を示唆する不吉な予兆といわれており、今回も翌12月4日に米国株が急落するなど、投資家の間で早くも警戒感が広まりつつあります。

今回の逆イールドの背景について、市場では次のような説明が聞かれます。「目先は米国の景気が堅調に推移し、FRB(米連邦準備理事会)が以前からの利上げ路線を継続するとみられる半面、その先は景気や金融政策の不透明感が強まっているため」。このように説明されても、いまひとつピンと来ないのが正直なところではないでしょうか。もう少し突っ込んで考えてみましょう。

一般に2年など期間が短めの金利は、目先の金融政策の動向(政策金利の水準)に大きく左右される傾向があります。対して5年や10年など期間が長めの金利は、将来的な物価水準や金融政策などに関する市場の見方(思惑)を反映して動く傾向があります。例えば景気回復の初期段階では、政策金利と関係が強い短めの金利が金融緩和によって押し下げられます。その後の景気拡大期には、インフレ期待の高まりなどによって長めの金利が押し上げられるため、結果として長短金利差は広がりやすくなります。

景気拡大が続く過程では、中央銀行が景気の過熱を抑えようと政策金利を引き上げることにより、短めの金利が徐々に押し上げられていきます。景気拡大も終盤にさしかかって、市場で将来的な景気減速が意識され始めると、長めの金利には下押し圧力がかかるようになります。こうして短期金利の上昇と長期金利の下落が同時進行することで生じるのが、長短金利の逆転現象です。

米国に景気後退のサインがともるのは時間の問題?

米国経済は今年7~9月期に3.5%の高い成長率を記録し、10~12月期も3%前後の伸びになると予想されています。11月には賃金(平均時給)が前年同月比で3.1%増加し、2カ月連続で3%台のプラスとなったほか、失業率も3.7%と48年ぶりの低水準を維持しています。雇用改善が個人消費を後押しし、序盤の年末商戦も底堅く推移しています。

個人消費の堅調さや賃金、物価の上昇に焦点を当てるならば、米国の好景気はいましばらく続き、19年もFRBが当初の予定どおり利上げを継続的に実施していくと考えられます。これが前述した逆イールドの背景に関する説明のうち、前半にあたる部分です。

一方で、もう少し大きな観点から米国経済を眺めると、19年には大型減税の効果が一巡することに加えて、ドル高による輸出停滞や中国との貿易戦争など、景気に逆風が吹き荒れる懸念もくすぶっています。これが前述した説明の後半部分、すなわち「そう遠くない将来における景気や金融政策の不透明感」にあたるわけです。

ある市場関係者は過去の米国経済について、長短金利の逆転と「ISM製造業景況感指数」の50%割れという2つのサインがともった後、1年ほどしてから景気後退に陥ってきたと指摘します。ISM製造業景況感指数は、米サプライマネジメント協会が300社以上の製造業を対象に受注や生産、価格など10項目についてアンケートを行い、毎月算出しているもので、米国の有力な景気先行指標のひとつといわれています。

ISM指数が50%を下回ると景気後退が強く意識されますが、今年11月時点の指数は59.3%で、米国経済がいまだ堅調な証しのようにも見えます。しかしながら、金融引き締めはやがて住宅投資や設備投資などの需要減退をもたらし、それが指数の50%割れにつながる可能性もあるため、FRBが今後も利上げを続ける限り、米国に景気後退のサインがともるのは時間の問題かもしれません。

市場の思惑に配慮してか、最近ではFRBの議長発言や議事要旨のなかに、利上げの早期打ち止めを示唆するような内容が増えてきました。利上げが従来の想定ほど続かない可能性も出てきたわけですが、それはそれで市場にとっては違った形の不吉な予兆に映るようです。過去20年間で米国の利上げが打ち止めになった後、利下げに転じるという局面は2回ありました。両局面とも利上げ終了から利下げ開始にいたる平均約1年の期間中に株価が天井を打ち、その後に大きく下落するという結果を迎えたのです

押しても引いても不吉といわれるFRBは気の毒な気もしますが、いずれにしても逆イールドの出現によって米国の景気がいよいよ「終わりの始まり」という段階に入ったことと、市場がそれをいよいよ本気で意識し始めたことは間違いないように思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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