1. いま聞きたいQ&A
Q

円ドル為替相場が最近、ほとんど動かないのはなぜですか?(前編)

投資行動の変化が円安ドル高の圧力を強めている

円ドル為替相場はこのところ、歴史的な「膠着状態」にあります。昨年(2018年)の年間変動幅は9.91円と、1973年に変動相場制が始まって以来の最小値を記録しました。もう少し長いスパンでみても、17年1月9日に1ドル=116円台を付けて以降、今日までほぼ2年半にわたっておおむね1ドル=105~115円という狭い範囲でのボックス相場が続いています。

専門家の間ではいくつかの要因が指摘されていますが、最初に少し意外な点として、投資家による投資行動の変化に着目したいと思います。例えば海外の投資家が日本の株式を購入する場合、購入代金として円が必要となるため、通常はそこに「円買い」が伴います。すなわち海外勢による「日本株買い→日本株高→円高」、あるいはその逆の「日本株売り→日本株安→円安」といった関係が成り立つことになります。

実際に90年代までは、日経平均株価と円ドル為替レートにこうした相関関係がみられていました。ところが21世紀に入って、日本にいわゆるゼロ金利政策が定着すると、その相関に変化が生じてきます。日本の政策金利は10年に0.00~0.10%となった後、16年には-0.10%まで低下して現在に至っています。一方で、米国の政策金利は08年末からしばらく0.00~0.25%が続いたものの、15年末からの断続的な利上げを通じて現在では2.50%という水準です。

投資家が海外の株式や国債に投資すると為替リスクが生じますが、「為替ヘッジ」を行うとそのリスクを回避することが可能になります。具体的には、投資の段階で将来の換金時における為替レートを確定させる「為替予約」を用いるのが一般的で、その為替予約の適用金利には各国の政策金利が採用されます。

いま仮に日本の投資家が1ドル=110円で米国株を購入し、期間1年で為替をヘッジするとしましょう。1ドル=110円で円を売ってドルを買い、それを米国株の購入に充てると同時に、1年後に米国株を換金して同じく1ドル=110円で円を買い戻す為替予約を行います。

日本の政策金利を便宜上0%と考えると、1年後も当初の110円はそのままですが、米国では政策金利が2.50%なので、当初の1ドルは1年後に1.025ドルまで増えることになります。1年後の換金時には「110円÷1.025=約107円」しか投資家に戻ってこないため、結果として為替ヘッジに3円分のコストがかかる計算になるわけです。

反対に、米国の投資家が1ドル=110円で日本株を購入する場合はどうでしょうか。同じように期間1年で為替ヘッジを行うと、1年後の換金時には当初の1ドルが1.025ドルまで増えて戻ってきます。この例から分かるように、今日のような金利水準においては、日本から米国の金融資産に投資する場合は為替ヘッジにコストがかかる一方で、米国から日本の金融資産に投資する場合は為替ヘッジを行うことで、内外金利差が自動的に収益として得られるのです。

こうした投資環境のもと、日本より金利の高い外国の投資家が日本の金融資産に投資する際には、為替ヘッジで自国通貨を買い戻すことにより、結果として資産購入時の円買いを伴わないケースが増えてきました。また、日本の投資家が海外の金融資産に投資する際には、為替ヘッジに相応のコストがかかるため、自ずと円の買い戻しを伴わない「ヘッジなし」の投資が中心となります。これらはいずれも、投資家による投資行動が「円安ドル高」方向への圧力を強めていることを意味します

対外直接投資を通じて息の長い円売りが増えてきた

実はそれ以上に円安方向への圧力を強めていると考えられるのが、海外進出をはじめとする企業活動の構造的な変化です。財務省が今年(19年)5月に発表した2018年度の国際収支速報によると、日本の経常収支は19兆4,144億円の黒字でした。経常収支は貿易やサービスなど、海外との取引で生じた国全体のお金の収支を表します。

経常収支のうち、海外子会社からの配当や海外での証券取引に伴うものを「第1次所得収支」と呼びます。その内訳をみると、08年度までは黒字額の8割が証券投資収益でしたが、今日では直接投資収益の比率が5割まで拡大し、18年度は10兆3,766億円と過去最高を記録しました。

対外直接投資においては、海外の消費地に現地法人を設立するにしても、M&A(合併・買収)によって海外企業を取り込むにしても、その資金を用意するための円売り(外貨買い)が伴います。直接投資は証券投資の場合とは異なり、ビジネス戦略上の観点から投資判断が下されるため、円売りは為替相場の水準にかかわらず継続的に生じることとなります。買い戻しの需要が発生しにくいうえに、息の長い投資(円売り)が増えることで、円安ドル高の圧力はじりじりと強まりつつあるわけです

過去には莫大な貿易黒字を背景として円高ドル安の圧力が強い状態が常だったことを考えると、最近の為替相場の膠着には、円高が進みにくくなったことが大きく関係しているのかもしれません。次回は引き続きそのあたりの事情を探りながら、将来的に膠着が崩れる可能性についても考えたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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