基本的に短期金利差がコストとして生じる
為替ヘッジとは、私たち日本人が海外資産で運用する際に、為替変動リスクを回避(ヘッジ)する手段のことです。海外の株式や債券に投資するファンド(投資信託)の中には、為替ヘッジをおこなうコースを用意しているものもあり、それらを選択することで、私たちのような個人投資家でも手軽に為替ヘッジを実現することができます。
為替ヘッジでは一般に「為替予約」という方法が用いられます。これは海外資産に投資する段階で、将来の換金時における為替レートを同じ水準に確定することにより、運用から為替変動の影響を取り除く仕組みです。ただし、為替予約では投資先の国と日本の金利差分だけ割高なレートで円を買い戻すすことになるため、結果としてその金利差分が為替ヘッジのコストとしてかかってきます。
例えば、私たちが豪州(オーストラリア)の国債に投資して為替をヘッジしたと仮定してみましょう。2010年1月22日現在、為替レートは「1豪ドル=83円」です。為替予約の適用金利には、いわゆる短期金利(政策金利)が採用されます。政策金利は日本が0.1%、豪州が3.75%です。
1年後に「1豪ドル=83円」で豪州国債を換金して円を買い戻す為替予約をおこなったと考えます。日本は金利がほぼ0%であり、1年後も当初の83円はそのままですが、豪州では金利が3.75%なので、当初の1豪ドルは1年後に1.0375豪ドルまで増える計算になります。つまり、1年後の換金時には「83円÷1.0375豪ドル=80円」しか戻ってこないことになり、3円分のコストがかかるわけです。
このように、為替ヘッジにあたっては基本的に2国間の短期金利差がコストとして生じるため、とくに海外の国債など安定資産に投資して為替ヘッジをおこなうと、結果として日本の国債に投資したのとほぼ同じ運用成果になるのが一般的です。現在、豪州10年国債の利回りはおおむね5%ですが、そこから日本と豪州の短期金利差に相当する3.65%を差し引くと、残るのは1.35%。これは日本の10年国債の利回りである1.34%とほぼ一致します。
米ドルに対してはコストがかからない珍現象
一見すると海外資産での運用において、為替ヘッジはあまり意味をなさないようにも思えますが、実はそうとも言い切れません。
例えばここ数年、海外の株式は総じて日本株を上回る騰落率を示していますが、一方で為替は円高が進む局面が目立ちます。海外の株式でせっかく高い運用益を上げても、為替差損によってトータルの収益が目減りしてしまうケースも少なくないわけです。あくまでも海外の株式など、期待できる収益率が国債よりも十分に高いことが条件になりますが、そのような海外資産への投資にあたっては、あえて短期金利差のコストを負担してでも為替変動リスクをヘッジする意義は大きいかもしれません。
とくに最近では、世界の基軸通貨である米ドルに対して、為替ヘッジのコストがほとんどかからないという珍しい状況が続いています。米国の政策金利は0.00~0.25%なので、日本と米国の短期金利差はほぼゼロです。そのため米国株はもちろん、米国のハイ・イールド債(低格付け社債)などに投資して為替ヘッジをおこなえば、相対的に高い利回りを丸ごと享受することが可能です。
2009年の登場以来、人気の高い「通貨選択型ファンド」においても、これを応用したような動きが見られます。通貨選択型ファンドは、最初に米ドル建てでハイ・イールド債や新興国債券などに投資し(米ドル買い・円売り)、さらに為替予約を用いて通貨を米ドルから他の高金利通貨に切り替える(米ドル売り・他通貨買い)仕組みです。その際、多くのファンドでは切り替え先の通貨として円も用意しており、実際に円を選ぶ投資家も結構いるようです。
円を選んだ場合は「米ドル売り・円買い」となるため、事実上、コストゼロで為替ヘッジをおこなったと同じことになるのです。こうした為替ヘッジの活用法は、あくまでも米国の短期金利が歴史的に低いことが前提であり、この先、米国が出口戦略として利上げに動けばメリットは消えてしまいます。
しかしながら、最近はFX(外国為替証拠金取引)などを通じて、個人投資家がどちらかといえば為替変動リスクに鈍感になりつつあると思われます。時と場合に応じて、為替ヘッジを選択する手もあることは、ぜひ覚えておいてほしいところです。