株式投資を行うにあたっては、数学的な能力も必要なのでしょうか?(前編)
平均株価は長期的には上昇している
株式に限らず、どのような金融資産への投資でも数値データの取り扱いは付きものです。しかし、投資のプロである機関投資家ならいざしらず、一般の個人が膨大な数値データを収集して、それらを細かく分析・検証することにはおのずと限界がありそうです。現実問題としてできるのは、ある種の数値データから何らかの「学び」や「教訓」を読み取ることではないでしょうか。その意味では数学的な能力というよりは、勘所を押さえるセンスのようなものが求められると言った方がいいかもしれません。
例えば以下に、日米の過去の平均株価をいくつか示してみます。
米国ダウ工業株30種平均 | 日経平均株価 | |
1968年4月末 | 912ドル | 1,456円 |
1988年4月末 | 2,032ドル | 2万7,509円 |
2003年4月末 | 8,430ドル | 7,831円 |
2018年4月末 | 2万4,359ドル | 2万2,467円 |
1968年4月末から今年(18年)4月末までの過去50年間で、米国ダウ工業株30種平均(ダウ平均)は26.7倍、日経平均株価は15.4倍にそれぞれ上昇しました。88年4月末からの過去30年間でみると、ダウ平均は約12倍に上昇し、年率換算でプラス8%台を記録しています。一方の日経平均株価は、同じ期間中に騰落率でマイナス19%の下落でした。ただ、03年からの過去15年間ではダウ平均、日経平均株価ともに年率換算で7%台のプラスとなります。
もっと時間をさかのぼると、ダウ平均は19世紀末の1896年には40ドルだったので、そこから120年あまりで600倍超に上昇し、年率換算でプラス5%台を記録していることになります。また、日経平均株価は算出が始まった1949年5月からバブルのピークだった89年末までの約40年間に、220倍という上昇を記録しています。
以上の数値データから、①平均株価は長期的には上昇している ②平均株価への投資では期間によってバラツキはあるものの、中長期的には年率5~7%程度のリターンが期待できる ③ダウ平均に比べて日経平均株価の推移が大きくゆがんでいるのは、バブル期をはさんだ株価の上昇と下落があまりに極端だったから--といった基礎的な情報が大まかに読み取れます。
平均株価が長期的に上昇する理由について、例えば「株価が上昇して困る人はいない」という説明があります。確かに金利高や円高になって困る人は多数いますが、株価が上がって困るのは空売りをしている投資家ぐらいのものでしょう。株価上昇は好景気を通じて社会全般に恩恵をもたらします。バブルにさえならなければ、国も株高に規制を加える理由がありません。一方で、平均株価が長期的には上昇するものだとしても、途中でバブルによる一時的な乱高下が避けられないことも、また歴史が証明しています。
各種の数値が上昇相場の成熟局面を示している?
バブル期を振り返ると、日経平均株価は85年の1万3,000円台から89年末の3万8,900円台まで4年で3倍に上昇しました。ダウ平均もITバブル期に、95年の4,000ドル台から2000年の11,000ドル台まで5年で3倍近く上昇しています。平均株価は基本的には経済成長率(GDP=国内総生産)に比例するといわれますが、日米ともその間、GDPが3倍に増えたかというと、もちろんそうではありません。バブル期の株価上昇が実体経済からかい離していたことは明らかです。
いま改めて注目したいのは、2009年3月6日の平均株価です。この日は前年に発生したリーマン・ショックと金融危機の影響から日米ともに直近の安値を記録しており、ダウ平均が6,626ドル、日経平均株価が7,173円を付けました。そこから約9年間でダウ平均は3.7倍、日経平均株価は3.1倍に上昇しています。期間が違うため同一視はできないものの、過去のバブル期に数値が似ているのは気になるところです。
前回、原油価格の上昇について取り上げましたが、実は10年前にも同じように原油価格が上昇する局面がありました。07年に米国でサブプライムローンによる不動産バブルが顕在化し、同年10月にダウ平均は当時の天井を打って下落し始めます。翌08年にかけて債券など他の金融資産でも値下がり傾向が鮮明になるなかで、主にインフレリスクをヘッジ(回避)する目的から原油への投資が膨らみました。
ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、08年7月に1バレル147ドルの史上最高値をつけた後に急落します。そこからリーマン・ショックと金融危機が相次いで発生するわけです。こうした10年前の一連の出来事は、市場関係者の間で「商品は景気後退の直前に大幅に買われる」という教訓として記憶されています。
米国の景気拡大が間もなく丸9年となり、株価や原油価格などが過去のバブル期や景気の転換期に近い様相を呈している現在、少なくとも株式の上昇相場が成熟局面を迎えていることには注意を払っておく必要がありそうです。次回は、そうした相場の成熟局面において私たちが心がけるべき投資のあり方について、やはり数値を中心に考えてみたいと思います。