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いま聞きたいQ&A

最近の原油価格の動向から、どのようなことが読み取れますか?

需要が拡大するなかで過剰在庫は着実に減少へ

原油価格が再び上昇基調を強めています。ニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、今年(2018年)5月7日(日本時間)に一時1バレル70.69ドルを付けて、14年11月以来3年5カ月ぶりに70ドル台を記録しました。1バレル20ドル台を付けた16年初めに比べると、2.5倍以上も価格が上昇したことになります。

一般に原油価格は、需給関係と中東情勢によって大筋のトレンドが決まると考えられます。世界的な好景気によって需要はこのところ拡大傾向にあり、IEA(国際エネルギー機関)では今年の石油需要が初めて日量1億バレルを突破するという予測を発表しました。さらに特殊な需給要因として、OPEC(石油輸出国機構)による協調減産の効果が加わります

OPEC加盟国にロシアなどの非加盟国を加えた主要産油国では、原油価格の高値安定に向けて17年1月から協調減産に取り組んでいます。参加国が合計で日量約180万バレルの減産を続けるなか、原油の過剰在庫は着実に減少してきており、在庫を「過去5年平均」まで減らすというOPECの目標は近々達成されるとの分析もあります。

4月18日にはロイター通信によって、OPECの盟主であるサウジアラビアが「1バレル80ドル、場合によっては100ドルが望ましい」と考えている旨の報道がありました。サウジアラビアでは国営石油会社の新規株式公開を控えているため、企業価値を高めるために原油価格の高値誘導を画策していると推測することもできます。この報道が事実ならば、過剰在庫が解消された後も協調減産が続く可能性が強まるため、需給面から原油価格は上昇しやすくなるわけです。

例によって中東情勢をめぐる地政学リスクも原油価格に影響をもたらしています。米英仏の3カ国は4月14日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したことに対する報復措置として、関連施設にミサイル攻撃を実施しました。こうした攻撃は1回限りとの観測が高まったため、市場の警戒は一時的なものにとどまりましたが、その後は米国のトランプ大統領が持ち出した新たな火種によって再び中東情勢に緊張が走っています。

トランプ大統領は5月8日、米英独中仏ロの6カ国が15年にイランとの間で結んだ核合意から離脱することを表明しました。核合意はイランが核開発につながるウラン濃縮活動などを大幅に制限する代わりに、米欧などがイランに課していた経済制裁を解除するというもの。オバマ政権時代に結ばれたこの合意をトランプ大統領はかねて「最悪のディール」と批判し、離脱をほのめかしてきました。

米国が核合意を破棄したことで、イランへの経済制裁が再開されて、日量380万バレルに及ぶイランの原油輸出が滞る懸念が出てきます。イランおよび中東の近隣国が核開発競争に走る、いわゆる「核開発ドミノ」が発生する恐れもあり、中東地域の混迷がさらなる原油価格の上昇につながる可能性は高いといえそうです。

当面は産油国でもある米国の影響力が強まりそう

従来から原油価格の動向が読みにくい要因のひとつとして、関係各国の本音がどこにあるのか分かりづらいことが挙げられます。例えば11月の米中間選挙が近づくにつれて、高価なガソリンを嫌う有権者を意識したトランプ大統領が原油高へのけん制を強めるのではないか、という見方が市場にはあります。しかし一方で、原油高は産油国でもある米国の経済にメリットをもたらすこともまた事実なのです。

EIA(米エネルギー情報局)によると、今年2月の米国の産油量は日量1030万バレルに達し、月次では過去最高を記録しました。原油価格の上昇に伴って米国のシェールオイルは採算を得やすくなっており、今後もリグ(掘削装置)の稼働数が増えて増産の動きが続く見込みです。20年までに米国はエネルギー輸出国に転じるともいわれており、米国にとって中東産原油の供給が減ることは、もはやこれまでのような驚異ではなくなっていると考えるのが妥当です。

こうした見方に基づくと、本来は政治・宗教の面で対立が激しいサウジアラビアとイラン、さらにはイランと関係の深いロシアが一致協力して減産に取り組んでいるという現状は、経済的にはもちろん、それが中東情勢の「適度な安定」を示唆するという安全保障上の意味合いも含めて、米国には望ましい状態といえるでしょう。

そんななか、米国があえてイランに難癖をつけることの真意はよく分かりませんが、イランの原油輸出が滞る分を自国の利益に直接結びつけたり、選挙公約を実現することで中間選挙を有利に運ぼうと考えているのだとしたら、ずいぶん露骨で乱暴なやり方だと思います。あるいは5月14日に在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転する計画があるため、中東地域における政治力の誇示を狙ったトランプ大統領お得意のパフォーマンスという側面も強いのでしょうか。

いずれにしても私たちは原油価格の動向を考えるにあたって、2つの点に注目しておく必要がありそうです。1つは当面の間、政治的にも経済的にも米国の影響力が強まりそうなこと。もう1つは、その米国とOPEC加盟国、およびロシアなど他の産油国のいずれにとっても、原油価格の上昇は共通の利益になるということです

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