最近は経営不振企業が企業再建のために、まず減資を行って、その後に増資をして再スタートを切るというケースが目立っています。特に昨年暮れは、UFJ銀行からたくさん資金を借り入れている企業(たとえば大京やMISAWA、双日ホールディングス、ダイエーなど)にこのようなケースが見られました。今回寄せられたご質問はこのあたりの事情に関するものだと理解しております。
話の順番として、まず減資から見てゆくことにします。
減資とは、企業が資本金を減らすことです。2株を1株に合体させたり、株式を消却したりして発行済み株式数を減らすことによって行ないます。ほぼ100%のケースで経営が立ち行かなくなっている不振企業が実施します。
以前、Q&A「欠損金と債務超過はどう違うのですか?」でご説明しましたが、企業は1年間の決算で赤字が出ると、それを「繰越欠損金」として貸借対照表に計上しておきます。そして次の年からの利益でその赤字分を埋めてゆくことになります。
しかし経営の苦しい企業は、借金が多すぎたりマネジメントが弱かったり、あるいは魅力ある新商品がなかったりと、根本的な競争力が落ちているわけですから簡単には利益は上がりません。次の年から赤字を埋めようとして思い切った戦略の転換を打ち出してみたりするのですが、それが裏目に出てしまい、かえって赤字が拡大してしまうというケースが数多く見られます。
もともと経営の苦しい企業なので、2年目も3年目もそのまま赤字を続けることになってしまいます。そうなると繰越欠損金(=累積損失)はどんどん膨らんでしまい、そのままではいつの日かその額は株主資本の額を上回ってしまいます。そうなると今度は「債務超過」という状態に陥ることになります。
ここまで来ると、その企業はもはや倒産寸前です。取引している銀行はそれ以上の融資に二の足を踏むようになり、株主価値はゼロ以下になってしまいます。株式市場からは退場を迫られるようになります。
企業が生き残りを図るのなら、そうなる前に何らかの手を打たなければなりません。繰越欠損金(過去から積み上がった赤字額)を解消するために、最後の手段に打って出ます。それが減資です。法定準備金の一部である資本準備金(場合によっては資本金)を取り崩して繰越欠損金を一気になくすのです。
ただしそれには手続きとして、株主総会の特別決議が必要となります。理由は言うまでもなく株主の利益を守るためです。通常の決議は、株主総会に出席した株主の過半数が賛成すればその議案は決定しますが、特別決議は株主数の過半数に当たる株主が出席した上で、出席者の3分の2以上が賛成することが必要です。特別決議は減資のほかに、定款の変更や株式併合、会社合併、株式交換、株式移転など、会社の経営にとってきわめて重要な事項を決める場合に使われます。
そして減資を行った後は、通常は増資が行われます。減資を行うと株主資本が非常に少なくなり、会社の経営が不安定になります。そこで新たに大口のスポンサーを募って、あらためて資本をつぎ込んで経営基盤を安定させます。
ここでは第三者割当増資の形をとることが多く、同時に経営陣の大半を入れ替えることも行われます。最近のケースでは、減資と増資が行われる際に、融資している銀行団が貸付金の返済を免除する「債権放棄(=債務免除)」を行うこともしばしばです。経営危機のがけっぷちに置かれていた企業は、こうして経営再建に向けて動き出すことになります。