今回は企業のファイナンスに関するご質問です。第三者割当増資とは、企業が外部から資金を調達する時の手段のひとつです。ある特定の第三者に対して新株を発行して資金調達を行うもので、株券を新たに発行して出資を引き受けてくれる相手先に割り当てて、その見返りに資金を受け取ります。「増資」というくらいですから資本金の増加を伴います。
上場企業の場合、新株の発行を伴う資金調達の方法としては、公募増資の方が一般的に用いられています。公募増資は上場企業が公募、つまり不特定多数の出資者を公けに広く募り、新たな株主より資本の払い込みを受けて資金調達の目的を果たすものです。
しかし未上場企業の場合は、株式を公開していないために公募増資によって資金を調達することが非常に困難です。そこで第三者割当増資が活用されることになります。「第三者」とは、その企業と企業の株主以外の者を指しており、取引先やベンチャーキャピタル、自社の役員など、以前から縁のある特定の人物や企業が増資の相手先になることが多いようです。
最近の事例を見てみましょう。未上場会社の資金調達の一種として第三者割当増資が活用されるケースです。
最初はカーナビ大手のアルパインのケースです。アルパインは札幌市にあるシステム開発会社「シーズ・ラボ」の第三者割当増資を6000万円で引き受けて、発行済株式数の20%強を取得します。シーズ・ラボとアルパインは、カーナビ用ソフト開発で以前から取引関係にあります。今回の増資引き受けを機にアルパインはシーズ・ラボとの提携関係を深め、さらにカーナビ用の地図データの作成においてシーズ・ラボへの発注量を増やしてゆく計画です。
次は富士写真フイルムの事例です。富士写真フイルムは2月に東京の創薬ベンチャー「ペルセウスプロテオミクス」の第三者割当増資を引き受けて、同社の筆頭株主になりました。出資額は10億円、ペルセウスの発行済み株式総数の22%を保有することになります。以前より富士写真フイルムは業務多角化の一環として、医薬品分野への進出を検討していました。昨年は社内にライフサイエンス事業部を設立しています。高齢化社会を向かえて創薬ベンチャー企業の活躍余地は大きいと見られていますが、その反面、新薬の開発にはたいへんな資金がかかります。この増資によってペルセウスは10億円の開発資金を手に入れたことになり、同時に富士写真フイルムは事業多角化のスピードを加速させることができます。
最近では企業が急激に事業を拡大させたり、それまでの業務のカバー範囲を広げたりする場合、企業買収が活用されるようになりました。第三者割当増資を機に資本提携と業務提携に踏み切るようなケースでは、企業買収よりも囲い込みの度合いが緩やかなものになります。企業買収は手続きが煩雑で、買収後も両社の間に感情的なしこりが残るケースがあります。これに対して第三者割当増資を通じた資本・業務提携では、買収ほどの大がかりな仕掛けも要らず、両社の関係を良好なものに保ちながら、お互いの技術を活用しあうことが期待できます。
上記の事例は、未上場企業が第三者割当増資を実施した場合でした。もうひとつ、上場企業も同じように第三者割当増資を活用することがあります。
最近では三洋電機のケースが世間の耳目を集めました。経営不振に陥っている三洋電機は2006年3月期に▲2330億円もの最終赤字を計上する見通しで、現在は全社挙げてのリストラに着手しています。昨年11月に発表された経営再建策では、半導体などの中核事業でない部門は分社化して、得意とする二次電池や冷熱機器などに業務を絞り込むプランが明らかにされました。大規模なリストラにはかなりの費用がかかるものです。そのための資金を捻出するために、三洋電機はゴールドマン・サックスグループや大和証券SMBCなど金融機関3社を引き受け先とする3000億円の第三者割当増資を実施します。
またソフマップは、2月末にビックカメラに対して第三者割当増資を実施して、ビックカメラの子会社になります。5月までに不採算店舗を8店舗閉鎖する予定ですが、調達した資金はそのリストラ原資に回される予定です。このように上場企業が第三者割当増資を行う場合は、事業の再構築を図る際のリストラ費用を獲得するケースが多いようです。
また上場企業の場合、大がかりな資本関係を構築する際に第三者割当増資を活用することもあります。最近のケースで最も有名なものが、フジテレビによるライブドアの第三者割当増資の引き受けです。
昨年春、ニッポン放送株のTOBを巡ってライブドアとフジテレビは株式市場と法廷で激しく争いました。この一件では最終的には両社が和解することで決着しましたが、和解案のひとつとしてフジテレビとライブドアは資本提携に踏み切ることに合意しました。この結果、昨年5月にライブドアがフジテレビに対して440億円の第三者割当増資を行い、フジテレビがライブドア株の12.75%を引き受けて第2位株主の座につきました。
いずれの場合でも、第三者割当増資を使った資金調達、資本関係の構築の場合は、その見返りとして発行済株式総数が増えるために、すでに株主となっている人たちの利益を侵害するケースがでてきます。それまでの株主が受けていた株主価値が薄まってしまう、いわゆる「希薄化」の問題です。そこで第三者割当増資は、発行条件を含めて、株主総会の特別決議によって決定される必要があります。
※特別決議:総株主の過半数の議決権を持つ株主が出席し、議決権の3分の2以上が賛成が必要