実需がともなわず期待や思惑が先行
原油や非鉄金属、貴金属、穀物など国際商品の価格が、いま軒並み上昇傾向にあります。これら国際商品の多くは、2008年夏ごろまで価格が高騰していましたが、その後の世界的な金融危機により、年末にかけて大きく値を下げることとなりました。その安値から2009年6月上旬までの約半年間で、原油(ニューヨーク先物)の価格は2倍以上に急騰。銅地金(ロンドン先物)や白金(ニューヨーク先物)、大豆やトウモロコシ(いずれもシカゴ先物)の価格も、50%から80%近くの上昇を記録しています。
前回の商品価格高騰は、主に経済成長の著しい新興国の需要増による需給のひっ迫と、ヘッジファンドなど投機色の強い資金の流入によるものでした。新興国と投資マネーが影響しているという点では、今回の価格上昇も表面上は似ているように見えますが、その内実は、前回とはかなり異なっているようです。
今回、新興国のなかでキーマンになっているのは中国です。中国政府は商品価格が金融危機以降に大きく値下がりしたのを「戦略備蓄のチャンス」ととらえ、2009年に入ってから銅地金や大豆などの購入量を大きく増やしてきました。同時に中国では4兆元(約56兆円)の大型経済対策が動き出し、その一環として農村地域を中心に家電製品の購入代金を補助する制度もスタートしています。こうした中国における在庫の積み増しと内需拡大への期待感が、非鉄金属や穀物の価格上昇を牽引している格好です。
先進各国による景気対策が、国際商品への投資マネーの流入を促しているという側面もあります。日米欧では2009年5月以降、長期金利が上昇傾向にありますが、これは各国で財政出動にともなう国債増発の懸念が高まっていることによるもの。国債の発行量が増えれば国債価格は下落するため、これまで金融危機時の安全資産として買われていた米国や日本の国債は反対に売られやすくなります。
景気回復へ向けて先進各国が大規模な資金供給や金融緩和を推し進めた結果、市場では「景気の底入れも近い」との期待と安心感が広がり、世界の投資マネーは国債から離れて、再びリスク資産へと向かい始めています。実際にここへきて新興国を含む世界の株式市場は上昇基調を強めており、投資マネーの分散先として株式とともに国際商品が受け皿になっている模様です。
こうして見ると、今回の商品価格上昇はあくまでも景気回復や需要拡大への期待や思惑が先行したものであると考えることができます。それは現在、国際商品に対する「実需」が世界中にほとんど存在していないことからも明らかでしょう。商品市場といえば、かつては世界の景気回復に合わせて相場が上昇していくというのが一般的な見方でしたが、その性格はいま、景気の先行指標として機能する株式市場に近づきつつあるのかもしれません。
実物資産としての影響力は増大
一方で、実物資産であると同時に主要な一次産品でもある国際商品の影響力も見逃すことはできないでしょう。例えば商品市場には、株式市場におけるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)のような投資尺度がなく、いわゆる適正価格が分かりにくいため、相場が乱高下しやすいという性質があります。今日のように景気が低迷するなかで商品価格が高騰を続けると、原材料費の上昇というかたちで企業経営を圧迫する恐れが出てきます。
現在、米国をはじめとして世界各国は「環境」や「脱炭素化」をテーマに新たな経済成長への道を模索しています。その契機として、地球温暖化問題とともに原油など資源価格の高騰があったことは否めません。すなわち資源価格が一定の段階で高止まりすることが、グリーン・ニューディール政策の前提になるとも考えられるわけです。こうした視点に立つと、商品価格の低迷もまた経済や社会に悪影響を及ぼす可能性があります。
これまで株式や債券、不動産など伝統的な資産の代替投資先として語られることの多かった国際商品が、ここ数年の大きな価格変動を経て、今後どのような経済的機能と役割を担っていくことになるのか。大いに注目したいところです。