1. いま聞きたいQ&A
Q

原油価格が上昇しているのは、なぜですか?

世界的な需要拡大に供給が追いつかない!

原油価格の世界的な指標となっているニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場が、今年(2007年)9月12日に、初めて1バレル=80ドルを突破しました。原油先物相場は過去3年ほどにわたって基本的に上昇傾向にあり、昨年(2006年)7月には1バレル=78ドルという当時の史上最高値をつけました。その後、今年1月に50ドル台前半まで下落しましたが、そこからまた1年足らずで5割以上も上昇したことになります。

原油価格が高騰している背景には、「需給関係のひっ迫」「投機マネーの流入」という2つの大きな要因があります。

中国やインド、ロシアなどの新興国で高い経済成長が続いた結果、ガソリンなど原油が元となる石油製品の消費量が急激かつ大量に増え、原油需要が世界的に急増しました。国際エネルギー機関(IEA)が今年7月に発表した今後5年間の中期石油市場見通しによると、世界の石油需要は年率2.2%で増え続けると予想されています。原油の需要増は今後もしばらくは続くと考えてよさそうです。

一方、中東諸国を中心とする産油国では、新たな油田開発の遅れなどから原油の採掘能力に限界が生じており、世界的な需要増に合わせて増産する余地がそれほどないのが現状です。なかにはナイジェリアのように、政情不安から輸出減を余儀なくされた産油国もあります。米国では、テキサス州やカリフォルニア州などで老朽化した製油所が故障し、石油製品の減産や生産停止に追い込まれるといったケースが相次いでいます。

米国エネルギー省によると、主要先進国における2007年末の石油在庫は1999年以来の低水準となる見通し。同省が9月12日に発表した米国内の原油在庫(週間統計)も大幅に減少していました。原油、石油、石油製品のすべてにおいて、世界需要の拡大に供給が追いつかないという構図ができあがりつつあります。

物価上昇→将来的なインフレへの懸念

もうひとつの要因である投機マネーの主役は、ここでもやはりヘッジファンドです。低金利通貨 の円を借りて高金利通貨で運用する円キャリー取引や、米国サブプライムローン問題のケースと同様に、世界中のヘッジファンドや年金基金がより高いリターンを求めて、原油や金などの商品市場へ大量の資金を投入しています。

サブプライムローン問題による損失で、一時は原油への投資比率を引き下げる動きも見られましたが、米国の利下げによって投資対象としてのドルの魅力が相対的に薄れたため、再び原油への投資が活発化してきました。マーカンタイル取引所における投機マネーによる原油の買越残高(買いが売りを上回った金額)は、9月の第1週に倍増(対前週比)しています。

原油価格の高騰は、日本の産業や国民生活にもさまざまな影響を及ぼし始めています。いくつか挙げてみましょう。

  • ・国内外で自動車の新車販売台数が減少
    →ガソリン価格の上昇により消費者のコスト意識が厳しくなったことが一因
  • ・大手航空会社が今秋から航空運賃を一部値上げ
    →航空機向けジェット燃料の高騰
  • ・食用油やマヨネーズ、ハムなどの食料品が値上がり
    →原油の高騰により、代替エネルギーとして注目されるバイオ燃料の製造が世界規模で拡大し、本来は食品の原料である大豆や菜種などが大量に使われた

このほか、ティッシュやトイレットペーパーなど一部の生活用品でも価格上昇が進みました。これらはいずれも将来的なインフレ(物価高)を指し示していると考えることもできます。前述したように、原油価格の高騰には投機マネーもからんでいるため、その影響の最終的な規模も継続期間も定かではありませんが、経済の大きな潮流が現在、ひとつの節目を迎えていることは確かだと言えるでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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