1. いま聞きたいQ&A
Q

国際商品価格の「全面高」は、何を意味しているのでしょうか?

希少性のない銅までも供給不足に

今年(2010年)の夏以降、原油や貴金属、非鉄金属、農産物など国際商品の価格が軒並み上昇し、いまや全面高の様相を呈しています。その背景にあるのは、主として以下のような要因です。

  • (1) 日米の追加金融緩和による世界的な「カネ余り」(運用・投機マネーの流入)
  • (2) 米ドル安の進行が「ドル建て取引」の国際商品に割安感をもたらした
  • (3) 中国など新興国における需要増に供給が追いつかない(需給の切迫)

原油の国際価格(ニューヨーク先物)は2010年の12月7日に一時、1バレル=90ドル台を突破し、2年2カ月ぶりの高値を記録しました。米国の原油在庫が過去最高に近い水準を保つなど、このところ世界の原油供給には余裕があることから、原油価格の上昇は上記(1)や(2)など、いわゆる金融要因の影響が大きいと考えられます。

金の国際価格(ニューヨーク先物)は同じく12月7日に一時、1トロイオンス=1432.5ドルをつけ、過去最高値を更新しました。今年、金価格が大きな上昇局面を迎えるのは、これで3度目のこと。いずれも米国の金融緩和が長期化するとの観測からインフレ懸念が高まっていることや、ユーロ圏で政府債務問題が浮上したことにより、世界の投資マネーが株式や債券から、景気の影響を受けにくく信用リスクも低い金へとシフトした格好です。

こうしたいわばおなじみの国際商品に加えて、今回は銅やコーヒーなど、これまで話題に上ることの少なかった商品の価格も大きく上昇しているのが特徴です

銅価格の国際指標であるロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物価格は、2010年12月7日に一時、史上初めて1トン=9000ドルの大台を超えました。銅は自動車や家電製品から電線、建築などのインフラ資材まで幅広い産業分野で用いられており、銅の国際価格は世界の景気動向を映し出す“鏡”といわれます。現在、先進国における景気の先行きが不透明ななかで銅価格が上昇しているのは、上記(3)の要因が大きいからにほかなりません。

世界最大の銅消費国である中国はもちろん、インドネシアやタイなどの東南アジア諸国でも銅の需要は急速に伸びています。2010年1~6月には世界で銅が30万トン近い供給不足に陥り、10月には銅の需給分析で定評のある国際銅研究会が、2011年に世界の銅供給が43万トン強も不足するという予測を発表して、波紋を呼んでいます。

最近では、銅の現物を裏付けとするETF(上場投資信託)の上場を控えて、外資系金融機関がLMEの銅在庫の半分以上を保有していることが判明しました。すなわち銅市場には、こうした相場のかく乱要因も存在していたわけです。いずれにしても私たちは今回の銅価格上昇を通じて、「希少性がなく市場規模の大きな国際商品においても供給の制約が起こり得る」という事実を思い知らされたことになります。

一次産品のインフレが始まった!?

コーヒーの国際価格(ニューヨーク先物)は2010年の10月に1ポンド=200セントの大台を超え、13年ぶりの高値をつけました。背景としては、主産地のブラジルやコロンビアで天候不順による減産懸念が浮上したことが挙げられます。コーヒーに限らず、2010年は夏場にロシアが干ばつ被害によって小麦の輸出を一時的に禁止し、綿花もパキスタンの洪水被害が供給不安をもたらすなど、農産物の市場では「天候不順」がキーワードのようになりました。

世界規模の人口増加や新興国における経済成長と食生活の変化は、農産物需要の増加を加速させています。一方で世界の農地面積は頭打ちの状態にあり、そこに異常気象や生産国による輸出規制などの不確定要素も重なって、農産物は今日、価格が急騰しやすい状況が続いています。

今回の国際商品価格の全面的な上昇は、資源や農産物といった一次産品において、いよいよインフレが始まりつつあることを示唆しているのかもしれません。だとすれば、いま世界はデフレとインフレが混在するバイフレーションが、「先進国/新興国」の国家レベルと「消費財/一次産品」の商品レベルで多層的に進行するという、きわめて複雑な環境に置かれているともいえます。それは、先進国が自らの景気回復を新興国の成長、すなわち膨大な人口という新たな資源に頼るかぎり、おそらく避けられない道なのでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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