企業の持続的な成長を反映するサステナビリティー情報
2027年3月期から日本の上場企業には、有価証券報告書でサステナビリティー(サステナ)情報を開示することが順次、義務付けられます。投資家は各社の持続的な成長性を判断するとともに、社会にとって有意義な企業を選びやすくなるでしょう。企業に対してより中長期目線の経営を促す効果も期待できます。
Q.日本企業のサステナ情報開示について最新動向を教えてください
サステナ情報とは、製品の生産・流通時に発生するCO2の排出量削減など、持続可能な社会の実現に向けた企業の取り組み内容を表します。従来のESG(環境・社会・企業統治)情報と同じような意味合いです。
金融庁は27年3月期から時価総額3兆円以上、28年3月期からは同1兆円以上の東証プライム上場企業に、有価証券報告書(有報)でのサステナ情報開示を義務付けます。時価総額5000億円以上の企業にも29年3月期からの義務化を予定しており、同5000億円未満の企業は今後の検討対象となっています。
具体的には、サプライチェーン(供給網)全体の温暖化ガス排出量を指す「スコープ3」のほか、人権への対応や女性管理職の登用数、不祥事に備えた体制構築など、気候関連のリスク管理からガバナンス状況まで幅広い情報が開示の対象となります。こうした情報は従来、企業が自主的に作成する統合報告書を通じて開示されるケースが多く、内容や体裁は原則として企業に委ねられてきました。
ニッセイアセットマネジメントで投資分析などを手掛ける井口譲二執行役員は、「統合報告書のような自主的な開示では、企業側が都合の悪い情報を隠してしまう恐れがある」と指摘します。有報では誤った情報を記載すると法律違反に問われる可能性があるため、今後はより正確なサステナ情報の開示が期待できるといいます。
すでに日本企業の間では、義務化を見越して有報でのサステナ情報開示を拡充したり、開示体制の充実を図ったりする動きも見られます。継続的に比較可能な東証上場企業(3月期決算)2153社について、デロイトトーマツグループが25年3月期の有報を集計したところ、サステナ情報の記載量は1社あたり平均6325字と23年3月期の1.5倍に増えていました。
最も開示が多いのは「人的資本」に関する情報で、全体の99.5%にあたる2142社が開示しています。「人権」や「地域経済」「水」「知財」など、これまで開示が限定的だった分野でも記載を拡充する企業が増えました。「生物多様性」に関する情報を記載した企業も311社(全体の14.4%)あり、直近3年で約2倍となっています。
例えばリコーでは25年3月期から取締役会での議論内容を新たに記載し、サプライチェーンにおける人権侵害リスクなどの情報を充実させました。同リスクへの注意を要する取引先には、現場監査を通じて改善を促すことなどを明記しています。
味の素は24年度より温暖化ガス排出量や水使用量といったデータの正確性を高めるために、収集頻度を年1回から月1回に変更しました。25年卒の新卒採用からは「サステナビリティ情報開示」の職種で募集を始め、2人を採用しています。
企業に対してより中長期目線の経営を促す効果も
金融庁が有報でのサステナ情報開示を義務化する背景には、日本企業の持続可能性を長期的に判断したいというグローバルな投資家からの要望があります。企業の5年先、10年先を見通すためには財務諸表の数値だけでなく、気候変動や人的資本、ガバナンスなどへの取り組みも分析し、将来のリスクと機会を洗い出す必要があるというわけです。
企業会計に詳しい高崎経済大学の水口剛学長は、「開示の義務化はサステナ情報がすべての投資家にとって企業価値評価に役立つと認められたことを意味する」と語っています。前出の井口氏は、義務化を通じて企業内では将来の戦略について話し合う機会が増えるので、より中長期目線の企業経営を促すことにもつながると評価します。
サステナ情報は投資家にとって重要な投資判断の材料となるものであり、後で内容の誤りや不正が発覚した場合には株価下落などを引き起こしかねません。そのため、情報の内容を第三者が確認して信頼性を確保する「保証」についても、開示義務化の翌年から求められることになります。保証は金融庁が登録した業者が担い、監査法人や国際標準化機構(ISO)認証機関が中心となる見込みです。
海外ではサステナ情報が虚偽記載と判断されて訴訟に発展したケースもあります。例えば米国では2018年にニューヨーク州が、気候変動リスクを過小評価のうえ開示したとして石油大手エクソンモービルを提訴しました。
最近はサステナ関連で後ろ向きの動きも目立ちます。トランプ米政権は国連気候変動枠組み条約から脱退するほか、同じく国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)からも離脱する方針です。欧州でも企業の負担を減らすため、気候関連の情報開示ルールについて適用範囲を狭めたり、開始の時期を遅らせたりする対応を取っています。
改めて考えてみたいのですが、企業が持続的に成長していくための条件とは何でしょうか。企業が社会の一員として活動する以上は、社会の発展や安定に貢献し、世の中から求められる存在であり続けることが最低限必要です。目先の利益を最大化するためなら、何をやってもいいわけではありません。
企業が持続可能な社会の実現に向けて取り組むことは、企業の持続的な成長にもつながりやすいわけです。こうした考え方は、環境や人権などに配慮している企業を投資先に選ぶ「サステナ投資」として、日本の機関投資家の間にも広がりつつあります。
サステナ情報開示の充実は、投資家が社会にとって有意義な日本企業を選ぶうえで大いに役立つことでしょう。欧米の動向などに左右されることなく、日本には自らの道を突き進んでほしいものです。(チームENGINE 代表・小島淳)