いま聞きたいQ&A

供給増と政府への信認低下により国債利回りが上昇へ

高市政権の経済対策が財政悪化につながるとの警戒感から、国債利回りが上昇しています。短期的には英国で発生したトラス・ショックの再現が危惧されるほか、中長期的には日銀が保有を減らしつつある国債の穴を誰が埋めるのかという問題もあります。「未来への不安を希望に変える」ためには、財政出動以外の工夫が必要なのかもしれません。

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Q.日本の国債利回りが上昇している理由を教えてください。

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、今年(2025年)12月2日に一時1.880%まで上昇し、08年6月以来、17年半ぶりの高水準となりました。償還までの期間が10年を超える「超長期国債」の利回りも、新発30年物国債が一時3.410%を付けて過去最高値を更新。11月20日には新発40年物国債が一時3.745%と、同じく過去最高値を更新しています。

日本の国債利回りが上昇している背景には、高市政権の経済政策が財政悪化につながるとの警戒感があります。そもそも国の経済政策が、なぜ国債利回りの上昇をもたらすのでしょうか。改めて整理しておきましょう。

政府は物価高対策や投資促進策、防衛費増などを盛り込んだ総合経済対策を進めており、11月28日にはその裏付けとなる2025年度補正予算案を閣議決定しました。一般会計の歳出総額は18兆3034億円と、新型コロナウイルス禍後では最大の金額です。

好調な企業業績などを背景に、2025年度の税収は従来見通しよりも2.8兆円上振れしています。しかし、それでも総合経済対策の歳入面は補えず、財源の約6割は国債の追加発行11兆6960億円でまかなうことになります。

このように経済対策の財源として国債が増発されると、供給増加によって国債価格が低下し、国債利回りの上昇を招きます。また、国債増発に対して市場が「財政規律の緩み」を意識した場合には、政府への信認が従来よりも低下します。国債の購入者にとっては信用リスクが高まるわけで、その見返りとしてリスクプレミアム(より高い利回り)を求めるようになり、結果として国債利回りが上昇するのです。

内閣府が11月17日に発表した2025年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.4%減、年率換算で1.8%減でした。6四半期ぶりにGDP成長率がマイナスとなるなか、高市首相は「強い経済」の実現に向けて、積極財政と緩和的な金融環境の両立を図りたい意向ですが、これらの組み合わせは物価高の抑制をかえって難しくするリスクもはらんでいます。

例えば日銀が利上げを先送りした場合は、円の相対的な投資魅力が高まらないことから円安が進んで、輸入物価の上昇を招きます。実際に対ドルの円相場を見ると、今年10月4日に高市自民党総裁が誕生する前は1ドル147円台でしたが、12月2日時点では155円台まで円安が進んでいます。

長期金利の上昇は、家計が住宅ローンを組んだり、企業が設備投資などの資金を借り入れる際に金利負担の増加につながります。政府が経済対策にどれだけ力を入れても、円安や金利上昇によって効果がそがれてしまう可能性があるわけです。

国債の安定消化へ向けて家計が吸収できる仕組みも必要?

高市首相は国と地方の基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス)について、単年度の黒字化目標を取り下げると表明しています。AI(人工知能)や半導体、造船、エネルギーなど将来的に成長が見込め、経済安全保障上も重要な産業への投資に予算をつぎ込むにあたって「制約」を外す狙いがあります。

PBは社会保障や公共事業といった政策に必要な経費がどの程度、借金に頼らず税収などでまかなえているかを示す指標で、赤字ならば借金への依存度が強いことになります。PB黒字化を巡っては、歴代政権がそれぞれ目標を示しながら達成時期を先延ばししてきた経緯があり、これまで一度も実現していません。

今回、その目標さえ消えたことで、市場関係者の間では財政規律が不安定化し、日本国債の信用低下につながりかねないという声が広がっています。足元の日本経済は名目成長率が金利を上回る「財政のボーナス期」に相当するため、本来ならば財政再建の好機であると分析する専門家もいます。

短期的に最も危惧されるのは、2022年に英国で財政懸念から金利が急騰したトラス・ショックの再現でしょう。イングランド銀行(英中央銀行)が金融引き締めに動く一方で、政府が国債増発によって財政拡張を進めようとする構図は、現在の日本と似ています。結果として英国は国債価格やポンドの急落に見舞われました。ただし、経常収支の赤字が定着している英国と、黒字を維持できている日本とでは状況が異なるとの指摘もあります。

中長期的な視点では、日銀が金融引き締めの一環として国債の月間買い入れ額を減らし続けるなか、その穴を誰が埋めるのかという問題もあります。野村資本市場研究所の斎藤通雄研究理事は、民間全体で年間50兆~60兆円規模の国債を新たに保有する必要があり、安定消化へ向けて「家計部門が国債を吸収できる仕組みも必要」と語っています。

イメージとしては1980年代から2016年まで存在した中期国債ファンドのように、実質元本保証で預金より利回りの高い商品が考えられますが、中期国債では利回りが不十分なうえに、債券による安定運用を望むのは高齢者が多いのが現実です。そのため、例えば超長期国債をベースに高利回りを確保しながら、何十年も保有することは前提とせず、手前で解約できるような商品設計が求められるといいます。

政府の総合経済対策を巡っては、いま本当にそれだけの規模が必要なのか、状況に応じたメニューになっているのかなど、内容を疑問視する見方も少なくありません。高市首相が強調するように「未来への不安を希望に変える」ためには、国民や市場の信認維持へ向けて、財政出動以外の工夫がもっと必要なのかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)

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