国の税収増を国民がどこまで信頼できるか
日本において、現在のペースで政府の純負債(負債-資産)が増え続けた場合、その総額が2020年頃には家計の純資産(個人金融資産-個人負債)を上回ると予測されています。つまり、あと10年ほどで、家計による国債の「買い余力」が無くなってしまうことになります。前編でもいくつか数字を紹介しましたが、こうした国債にまつわるネガティブなデータは、枚挙にいとまがありません。
ただし、国の財政赤字がどの程度まで拡大すると破綻の危機に陥るのかについては、これまでにきちんと検証されたことがないため、よく分からないのが実状です。例えば、過去に英国で公的債務残高の対GDP比が200%を超えた時期がありましたが、それでも財政破綻には至りませんでした国債増発の問題は、どうやら単純に数字だけで判断できるものではなさそうです。
注目すべきポイントは2つあると思われます。ひとつは、私たち国民が日本という国をどこまで信頼するかが、最終的な決め手になるということ。そもそも国の借金というものは、極論すれば、税収による「つじつま合わせ」が可能です。すなわち国債の保有者が、増税を含む国の将来的な税収増に対して信頼を置き、納得することができれば、財政破綻は避けられるわけです。
その意味では、現在の民主党政府にかかる期待と責任は非常に大きいでしょう。今年(2010年)は参議院選挙があるため、多くは期待できないかもしれませんが、今後は具体的かつ本音の政策が求められてきそうです。新たな産業の成長戦略や、高齢者および女性の就労率アップといった経済活性化策に加えて、消費税率や年金受給年齢の引き上げなど、国民にとって痛みをともなう政策の実施も、もはや避けられそうにありません。
実際に、現時点で国債相場が崩れていないのは、日本の消費税率が国際標準に比べて低いからだという見方もあります。市場関係者の間には、消費税率を引き上げさえすれば十分な歳入が確保できるというコンセンサス(合意)があり、市場はそれを織り込んでいるというのです。さまざまな「無駄な支出」の削減と併せて、本当に必要なことを実行する勇気と、その必要性を国民にきちんと語る潔さを、政府には期待したいところです。
長期金利だけが急騰することは考えにくい
もうひとつのポイントは、国債の問題もトータルな経済環境の推移のなかで、冷静にとらえるべきだということ。国債増発の影響として、まず懸念されるのは長期金利の上昇ですが、いきなり長期金利だけが急騰するというのは、通常では考えにくいことです。
現在、日本はデフレの状態にあり、40兆円近くに上る需要不足の解消には数年を要すると言われています。景気の低迷と賃金水準の低下によって、企業や個人の資金ニーズも不足しており、銀行は本来なら融資に回すべき資金でせっせと国債を購入するありようです。このような状況では、高い金利を負担してお金を借りても採算が合わないため、高金利の資金需要は出てきません。すなわち、長期金利の上昇にはある程度のレベルで抑制の圧力がかかりやすいのです。
この先、景気が上向いてくれば金利も上昇に向かいますが、景気回復にともなう税収増によって財政の改善が期待できます。あまり考えたくないことですが、世界で景気回復が進むなか、日本だけが取り残された場合はどうなるでしょうか。先進各国がいわゆる「出口戦略」として政策金利の引き上げに乗り出すと、日本との金利差が生じて円安が進むと思われます。しかしながら、適度な円安は輸出が中心の日本企業には有利に働くため、景気回復の足がかりとなり得ます。
今後10年程度の長期で見た場合、少子高齢化による国内消費の縮小や社会福祉費の増大など、日本の国家財政にとって厳しい傾向が高まることは間違いないでしょう。財政の健全化が早急に求められていることは確かです。ただし、いずれにしても景気回復は財政の改善に向けて不可欠の要件であり、財政規律を重んじるあまり、景気の回復が遅れるようでは元も子もありません。
国も私たち国民も、いま改めて日本経済の優先順位を確認するとともに、市場が示すさまざまな変化に目を凝らし、できるかぎり大きな視点から適切な対応を考えていく必要がありそうです。