不動産不況で危惧される中国共産党の強硬な対外行動
中国では不動産市況の悪化とともに、景気後退や雇用不安も現実味を帯びてきました。地方を中心に膨張する債務問題が足かせとなり、かつてのような大型経済対策にはもはや頼れないのが実情です。国内の求心力が薄れるなかで、今後は中国共産党が台湾統一など、強硬な対外行動に出る可能性も危惧されます。
Q.中国で不動産市況が悪化したのはなぜですか?
きっかけは中国政府と金融当局が2020~21年に行った不動産規制です。富裕層による投機の過熱などによって不動産価格が高騰し、関連の負債も膨張したため、20年8月に中国人民銀行(中央銀行)は大手不動産企業に対して資金調達の規模を制限する「3つのレッドライン(三道紅線)」を設定しました。以下のような内容です。
●総資産に対する負債(前受け金を除く)の比率が70%以下
●自己資本に対する負債比率が100%以下
●短期負債を上回る現金を保有していること
続いて21年1月には、銀行の住宅ローンや不動産開発企業への融資に「総量規制」を課しました。これは銀行の資産規模に応じて、総融資残高に占める住宅ローンなどの残高の上限比率を定めたもので、大手銀行から農村向け金融機関まで5段階に分けて規制しました。
値上がりを前提とした不動産業界の事業モデルに転換を迫るとともに、都市部の過度なマンション価格の高騰などを抑える目的でしたが、結果としてこれらの規制が不動産開発企業の経営難と住宅不況をもたらします。資金不足となった不動産開発企業がマンション建設を途中で放棄する事例が頻発し、消費者の住宅購買意欲は大きく冷え込みました。
21年に経営悪化が明るみに出て現在は経営再建中の不動産大手、中国恒大集団では今年(23年)6月末時点で負債総額が2兆3882億元(約48兆円)、債務超過額は6442億元(約13兆円)にのぼります。販売のめどがつかないまま抱える開発用不動産が評価額で1兆860億元(約22兆円)分もあり、仮に中国の住宅価格が1割下がると、単純計算で1000億元超の評価減になります。
不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)も、販売縮小により資金繰りが悪化しています。同社は今年6月末時点で2544億元(約5兆円)の資産超過でしたが、8436億元(約17兆円)と資本の3倍を超える開発用不動産を抱えており、今後も経営不安はくすぶり続けそうです。
不動産不況への危機感を強める中国政府は、価格高騰対策で導入した住宅購入規制の緩和や、銀行の住宅ローン供与を制限する総量規制の停止などに乗り出しました。しかし消費者の間では、将来の引き渡し不能リスクを意識して、未完成住宅の「青田買い」を手控える動きが広がっています。また、国全体として農村から大都市への人口移動が一段落したほか、人口そのものが減少に転じており、かつてのような住宅需要の急回復は見込めません。
経済成長率は鈍化し、若年層の失業率は2割超へ
リーマン・ショックが発生した08年に、中国は4兆元(当時の為替レートで約57兆円)の財政出動を打ち出し、世界経済を恐慌から救う役割を果たしました。今回も自らの苦境を救うために経済対策が有効と考えられますが、地方の債務問題などが足かせとなり、思うに任せないのが実情です。
いま特に問題視されているのは、中国の地方政府傘下にあるインフラ投資会社「融資平台」で債務が膨張していること。IMF(国際通貨基金)では、このまま融資平台の債務増加が続くと、27年には100兆元(約2000兆円)の大台に乗ると推計しています。
融資平台は銀行や債券市場から資金を調達し、橋や道路、公共住宅などインフラ投資の建設にあたります。政府の「暗黙の保証」にタダ乗りできるため、政府なみの低コストで資金を調達することが可能で、それが際限のない債務増加の温床となった格好です。
中国の地方政府にとっては従来、土地の使用権を不動産開発企業に売却することで得られる利益が、税収入と並ぶ財政の柱になっていました。ところが不動産開発企業の経営難によって土地使用権売却収入は急減しており、融資平台に対する支援余力も低下しています。
融資平台は地方政府の指導下にあるものの、政府の予算・決算の範囲外に位置するため、融資平台が抱える債務はいわゆる「隠れ債務」に該当します。こうした隠れ債務を含めると、中国の政府債務は27年にGDP(国内総生産)比で149%に達し、主要20カ国(G20)では 日本の261%に次ぐ2番目の借金大国になる見通しです。
不動産バブルの崩壊懸念や債務の大きさが日本の90年代前半に似ていることから、最近は市場関係者の間で中国の「日本化」を指摘する声が増えてきました。すなわち、経済の長期停滞とデフレの進行です。しかし、それ以上に危惧されるのは、共産党体制の行方ではないでしょうか。
IMFの予測によると、中国の経済成長率は23年が5.2%で、24年には4.5%に鈍化する見込みです。景気の減速により、16~24歳の失業率はすでに2割を超える水準にあります。中国共産党による一党支配の正当性は、高い経済成長と社会の安定が支えとなってきました。景気低迷や雇用不安が長引けば、国内統治が不安定化するリスクにつながります。
いつも言われることですが、独裁政権が国内で求心力を失いそうになった時、ナショナリズムで国民を束ねるため、強硬な対外行動に出がちです。中国は当面の経済問題に加えて、2030年代には少子高齢化の影響から深刻な人口問題にも直面すると予想されます。重要な国家目標の実現に向けては、これから5年程度が勝負であり、米国の政府関係者からは「台湾統一などの軍事行動は今後5年が最も危ない」という声もあがっています。
もちろん杞憂(きゆう)に終わってほしいところですが、ロシアの現状を見るにつけ、この問題を楽観視してよい理由はないように思われます。