債券投資にあたって意識しておきたい金利と為替の影響
信用力の高い国債や社債などを満期まで保有すれば、実質的に元本割れの心配はありません。ただし、金利の上昇局面で中途換金する場合には、債券価格の下落リスクが伴います。米ドル建て債券は相対的な利回りの高さが魅力ですが、為替リスクが発生するため、為替変動による損益分岐点を確認しておくことが大切です。
Q.これから債券に投資する際の注意点を教えてください
債券の性質について、簡単におさらいしておきましょう。私たちが債券に投資するうえで知っておきたい重要なポイントは以下の2点です。
- (1)債券を購入して満期まで持ち続けると、債券の発行体がデフォルト(債務不履行)に陥らない限り、最初に決められた利率にしたがって毎年一定の金利収入が得られ、償還時には元本も戻ってくる。
- (2)市中金利(世の中の金利)が上昇すると債券価格は下落し、市中金利が低下すると債券価格は上昇する関係にある。
ポイント1から分かるのは、デフォルトの恐れがほとんどないと考えられる日本の国債や、信用力が高い一部の日本企業の社債を購入して満期まで保有すれば、当初に見込んだ運用益が確実に得られ、元本割れの心配もないということです。
個人投資家が購入できる日本国債には「新窓販国債」と「個人向け国債」があります。例えば今年(2023年)9月の募集分について利率をみると、新窓販国債10年物が年0.4%(利回りは年0.615%)、個人向け国債「変動10年」が年0.43%です。また、同じく今年9月に募集が行われた三菱UFJフィナンシャル・グループの個人向け社債(期間10年4カ月、格付けA+)は、実質破綻時免除特約および劣後特約付きで、利率が年1.672%となっています。
株式などと比べて、債券のリターンに物足りなさを感じる人も多いかもしれません。一方で高齢者など、まとまった資金を10年程度にわたって安全確実に運用したい人にとっては、定期預金より大きいリターンはそれなりに魅力的とも言えるでしょう。ひとつ気になるのは、運用の途中で換金ニーズが生じた場合です。
上記のポイント2から分かるのは、昨今のように金利が上昇する局面で債券を中途換金すると、債券価格の下落によって運用成果が影響を受ける可能性があることです。例えばいま、期間が10年・利率が年2%の社債を額面価格で購入したとします。どうしても換金の必要に迫られ、3年後に売却したらどうなるでしょうか。
3年間の保有中に単純計算で6%分の金利収入が得られますが、売却時に市中金利が上昇して社債の価格が額面より3%下落していたら、実際に手元に残るのは3%分の運用益です。すなわち、この債券運用で当初に見込んでいた「10年間で年2%の利回り」は、結果として「3年間で年1%の利回り」に変わったこととなります。
米ドル建て債券では為替変動による損益分岐点に注目
実は、こうした金利上昇の影響を受けないのが個人向け国債「変動10年」です。この国債では、市中金利の動きに応じて半年ごとに適用される利率が変わり、発行から1年が経過すると、いつでも購入金額の一部あるいは全部を中途換金することができます。中途換金した場合に戻ってくる金額は「額面金額(元本)+経過利子相当額-中途換金調整額」で、中途換金調整額は「直前2回分の利子(税引き前)相当額×0.79685」となっています。
一例として、21年4月15日発行の個人向け国債「変動10年」を100万円分購入し、3年後の24年4月15日にすべて換金した場合を考えてみましょう。運用期間中の適用利率は以下のようになります。
●21年4月16日~10月15日: | 0.09% |
●21年10月16日~22年4月15日: | 0.05% |
●22年4月16日~10月15日: | 0.12% |
●22年10月16日~23年4月15日: | 0.16% |
●23年4月16日~10月15日: | 0.33% |
●23年10月16日~24年4月15日: | 0.43% |
3年間の保有中に単純計算で1.18%分の金利収入が得られるので、投資資金は当初の100万円から101万1800円まで増えます。中途換金調整額は「100万円×(0.0033+0.0043)×0.79685=約6056円」なので、それを差し引くと手元に残るのは100万5744円です。おおむね「3年間で年0.19%の利回り」が得られることとなり、適用された表面利率の平均値(1.18%÷6=約0.19%)で運用できることが分かります。
ここにきて日本の個人投資家の間では、相対的に利回りの高い米ドル建て債券が人気を呼んでいます。米国では市中金利の上昇を受けて債券の発行条件が厳しくなっているため、信用力の高い日本企業の社債でも、米ドル建てならば高い利回りを期待できます。例えば野村証券が販売しているトヨタ自動車の米ドル建て社債は今年9月19日現在、残存期間(償還までの残り期間)が9年9カ月で、利率は5.123%(利回りは4.74%)となっています。
それほど遠くない将来にFRB(米連邦準備理事会)が利下げに政策転換するとの観測もあることから、米国内では今後、市中金利が低下に向かう可能性も考えられます。日本と米国の内外金利差が縮小すると円高要因になるため、日本の個人投資家がこれから米ドル建て債券に投資する場合には、為替の動向に注意する必要があります。
前述したトヨタ自動車の米ドル建て社債を、円ドル為替レートが1ドル=147円の時点で購入し、満期まで持ち切ったと仮定しましょう。償還時に1ドル=93円程度まで円高が進むと金利収入の蓄積分がなくなり、元本割れの可能性が出てきます。1ドル=120円程度の円高でも、金利収入の半分が吹き飛んでしまう計算です。
最近の円安基調を踏まえると、このような円高が進むことはイメージしにくいかもしれません。しかし、約10年後の為替動向など誰にも予測できないのが実情です。為替変動による損益分岐点を求める計算式は「現在の為替レート(円)÷{(1+利回り)年数の累乗}」なので、この式を参考にしながら債券運用の状況を定期的に確認することが大切です。
*債券の利率や利回りの数字はいずれも税引き前。