いま聞きたいQ&A

日本株がようやく長期保有に値する資産になってきた!?

短期資金が主導した今回の日本株上昇について、市場では早くも息切れを懸念する声が聞かれます。一方で、日本企業の利益改善度が米国企業を上回るなど、日本株の長期的な魅力が高まっていることを示すデータもあります。海外の長期投資家を呼び込むうえでは、インフレによる収益率の改善もポイントになりそうです。

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Q.日本株が上昇した背景と今後の見通しについて教えてください。

日本株がバブル崩壊から30年超の時を経て、高値更新を試そうとしています。日経平均株価は今年(2023年)7月3日に3万3753円33銭を付け、1990年3月以来、およそ33年ぶりの高値を記録しました。ちなみにバブル時の史上最高値は89年12月29日の3万8915円87銭、史上最安値は09年3月10日の7054円98銭です(いずれも終値)。

今回の上昇局面では、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に改善要請を出したことや、米国の著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が日本の大手商社株を改めて評価したことなどが、主に海外投資家の間で好材料と受け取られました。日本取引所グループによると、今年4月以降の17週間で、海外投資家は現物と先物の合計で8兆円超の日本株を買い越しています。アベノミクスが始まった12年11月以降の17週間では買越額が6兆円超だったので、それを上回る勢いです。

一方では、日本株買いの中身を問題視する声もあがっています。上記のような好材料に刺激を受けて、従来は日本株への興味が薄かった海外の「ツーリスト投資家」が、電気機器や精密機器などの業種を中心にクオリティー・グロース株(質の高い成長株)のまとめ買いに走りました。ツーリスト投資家は目先の上昇率が鈍ると売りに転じやすく、過去にもアベノミクス相場において、13年5月を高値に日本株はいったん大きく調整した経緯があります。

今年8月10日時点で日経平均株価の終値は3万2473円65銭となっています。株高が進んで日本株の相対的な割安さが薄れたため、短期的な資金が主導する日本株買いの勢いは弱まってきたと、市場では相場の息切れを懸念する声が聞かれます。

しかしながら、過去10年あまりで日本企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)は大幅に改善されてきました。日本株が長期保有に値する資産になってきたと分析する専門家もおり、日本株の今後については、より大局的な観点で考えることが重要でしょう。

株価の割安さを判断する指標のひとつPER(株価収益率)について、株式市場の平均値は国際的に14~16倍が適正水準とされています。89年末の日本株は約60倍と割高でしたが、そこから20年以上かけて2012年前後に適正水準となりました。その後は利益の増加とともに株価も上昇する「普通の資本市場」に戻っていると、ニッセイ基礎研究所の井出慎吾チーフ株式ストラテジストは指摘します。

割高修正とともに利益改善も進んでいます。フィデリティ投信の重見吉徳氏によると、TOPIX(東証株価指数)ベースでみた日本株の22年度の1株利益は、10年前の12年度に比べて2.9倍となり、米国株(S&P500種株価指数ベース)の同2.1倍を上回っています。日本株は米国株に比べて、過去10年間で利益合計額の増加率が大きかったと同時に、株式数も大きなペースで減少したため、利益を株式数で割って求める1株利益の改善度が大きくなった格好です。

利益合計額が増加した要因としては、日本企業が雇用・設備・債務という3つの過剰の処理を終えて利益が出やすい体質になったことや、14年以降に企業統治改革が進んだことなどが挙げられます。株式数が減少したのは、22年度に過去最高を記録した日本企業による自社株買いなどによるものです。米国より高い利益創出力と積極的な利益還元は、日本株の長期的な魅力が高まっていることを示すといえます。

インフレが海外の長期投資家を市場に呼び込む

インフレが日本株にとって追い風になるという見方もあります。龍谷大学の竹中正治教授によれば、日本国内のインフレ率が1%ポイント上昇すると、日本企業のROE(自己資本利益率)は2.15%上昇するという相関関係が見られます。

ROEは企業が株主の資金を使って、どれだけ効率的に利益を上げているかを示す財務指標です。日本の生産年齢人口が減少するなかで今後、賃上げなどを通じて仮に2%のインフレ率が定着した場合には、ほぼゼロインフレだった過去25年に比べて4.3%のROE向上が見込めることになります。

賃金の持続的かつ構造的な上昇は、日本企業に価格戦略の変更を迫るとともに経営資源の最適化を促して、収益率の向上をもたらすことが期待できます。そうした好循環がROEの向上につながると考えられるわけです。

東証プライム上場企業(金融などを除く)約1630社を対象に、最終損益と配当予想、自社株取得枠の設定額を基に推計した23年度の予想ROEは9.0%となっており、そこから4.3%ポイントの向上が実現すると13%強になります。QUICK・ファクトセットのデータによると、22年度の米国企業(S&P500種株価指数の採用企業)のROEは20%、欧州企業(ストックス600の採用企業)は同16%であり、日本企業のROEが改善しても欧米の主要企業には及びません。

しかし、ROEにおいては水準よりも変化の度合いが重要視されます。ROEの高さはすでに株価に織り込まれていることが多い半面、ROEが低いと株価は割安な状態に置かれがちです。その分、ROEが予想を上回って改善すると株価は大きく上がりやすく、インフレによる日本企業のROE向上は日本株の継続的な上昇につながる可能性があります。

日本の脱デフレに確信を持った海外の長期投資家が、腰を据えて日本株投資に取り組むようになれば、日経平均株価が高値を更新する日もそう遠くないような気がします。そのとき私たちは、失われた30年とは結局のところ、デフレの問題だったと振り返ることになるのでしょうか。

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