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  • 株式市場の現状について、できるだけ分かりやすく教えてください。(前編)
いま聞きたいQ&A

株式市場の現状について、できるだけ分かりやすく教えてください。(前編)

経済が打撃を受けるなかで株価が上昇するという不思議

日経平均株価は2020年12月30日に2万7444円の終値を付け、年末の終値としては1989年末の3万8915円(史上最高値)以来、31年ぶりの高水準となりました。米国のダウ工業株30種平均も20年11月24日に史上初めて3万ドル台を突破し、12月31日には3万0606ドルと史上最高値を更新して1年の取引を終えています。

一方で、新型コロナウイルスの感染者数は世界全体で8000万人を超え、経済への悪影響が懸念されています。OECD(経済協力開発機構)は21年の世界の実質国内総生産(GDP)成長率について、予測値を20年9月時点の5.0%から12月には4.2%へと下方修正しました。金融情報会社リフィニティブの集計やJPモルガンなどの予測によると、GDP成長率は欧州が20年10~12月期に、米国でも21年1~3月期に相次いでマイナスとなる見込みです。

日本は感染者や死亡者が欧米より少ないものの、東京都で1日当たりの感染者数が初めて1000人を超えるなど、危機感は急速に高まっています。ボーナスの減少など所得環境の悪化に加えて、年末年始には観光需要を喚起する政府の「GoToトラベル」事業が全面停止となり、消費の停滞は避けられない状況にあります。

コロナ禍によって経済が打撃を受けるなかでも株価が上昇するというのは、素人目にみれば不思議な現象といえるのではないでしょうか。市場関係者は主な要因として、

  • ●世界の主要国が大規模な金融緩和と財政出動により景気を下支えしていること
  • ●米国の大統領選挙において市場が懸念したほどの目立った混乱がなかったこと
  • ●新型コロナウイルスのワクチン開発にメドが立ち、経済正常化への期待が高まったこと

などを挙げています。

ただし、こうした説明を受けても「(上がるのが)なぜ株価なのか」という点については、いまひとつピンときません。もう少し話を分かりやすくするために、債券市場との比較も踏まえて、投資家から見た株式市場の現状を考えてみたいと思います。

米国債の利回りが下がるところまで下がってしまった

例えば国債に投資する場合、市中金利(金融市場で決まる標準的な金利)が低下すると国債価格は上昇するため、投資家は国債のインカムゲイン(金利収入)を得ると同時に、キャピタルゲイン(売買差益)も得ることが可能になります。国債などの債券投資家にとって、市中金利が長期で低下傾向にある局面は相対的に大きなリターンを期待できる絶好の運用環境といえるわけです

過去40年間の米国債市場は、まさにそうした黄金時代に当たるものでした。1981年に15%を超えていた米10年国債利回りは、長期にわたって低下トレンドを描き、20年末には0.91%まで低下しています。80年を起点とする40年間のトータルリターンは1150%に達し、その間のインフレ分を差し引いても投資家は270%の実質リターンを得た計算になります。

しかしながら、端的に言って「利回りが下がるところまで下がってしまった」のが米国債の現状ではないでしょうか。コロナ危機に対応するため、FRB(米連邦準備理事会)は20年3月にいわゆるゼロ金利政策に踏み切りました。これを受けて米10年国債利回りは同3月と7~8月に一時、0.5%台まで低下しています。

FRBは日欧のようなマイナス金利政策に否定的なため、米国の市中金利がここから大きく低下することは考えにくいのが実情です。金利が低くてインカムゲインが小さいうえに、今後はキャピタルゲインも期待薄となれば、米国債の投資対象としての魅力は低減します。

世界の投資家は少しでも高い利回りを求めて、米国債に替わる投資対象の発掘に躍起となっています。商品やインフラなどのオルタナティブ(代替)投資が注目されていますが、米国債に比べると市場規模が小さく、流動性の面では十分とはいえません。結局のところ、このようにして行き場を失った資金の一部が、なかば消去法で株式市場に流れ込んでいると考えられるわけです

経済学者や市場関係者の間では最近、「適応的市場仮説」という理論が話題を呼んでいます。この理論によれば、完全に合理的でも非合理でもない人間が参加する金融市場は、その時々で環境の変化に直面しながら学習し、新しい環境に適応しながら進化していく、とのこと。

市場にはもっとさめた見方もあります。現状の株高はコロナ危機の収束による景気回復への期待と、逆に収束までの期間が長引くことで金融緩和や財政出動が長期化することへの期待という、両面の“いいとこ取り”にすぎない――。

コロナ禍の株高をもたらしているのが投資家の進化なのか、あるいは甘えや楽観なのかといったことの真相は、現時点ではよく分かりません。いずれにしても、私たち個人が今後も資産運用を行うに当たっては、株式市場の現状をさまざまな角度から分析しておくことが大切かと思われます。次回も引き続き、このテーマについて考えていきます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。