1. いま聞きたいQ&A
Q

「コロナ後」の経済状況について、どのように考えればいいですか?(前編)

国が借金を増やしても金利が反応しない

コロナ危機にともなう需要激減や失業率の上昇などに対処するため、世界各国で現在、大規模な経済対策が打ち出されています。米国ではトランプ政権と議会が3兆ドル弱という巨額の財政出動に合意しました。これにより2020年における米国の財政赤字は4兆ドル規模と、前年の4倍程度まで膨らむ見通しです。

日本でも6月12日に、新型コロナ対策を盛り込んだ2020年度第2次補正予算が成立しました。1次と合わせた新規国債発行額は57.5兆円で、これは国の新たな借金に当たります。財務省のデータによれば、国債と借入金、政府短期証券を合計したいわゆる日本国の借金は20年3月末時点で1114兆5400億円と、過去最大を更新しています。主要国のなかでも日本の財政は突出して悪い状況にあり、そこに新型コロナ対策として大型の財政出動が加わったことになります。

一般論としては財政悪化による信用力の低下を通じて、日本国債の金利は上昇(国債価格は下落)に向かうのが道理でしょう。ところが実際にはそうなっていません。長期金利の指標となる10年物国債利回りは、6月12日現在で0.01%という水準です。3月後半に0.08%まで上昇する局面があったものの、4月以降はおおむね0%前後で推移しています。

日本政府が借金を増やしても金利が反応しないのは、日銀がこれまで以上に積極的に国債を購入する姿勢を示しているからです。日銀は4月の金融政策決定会合で、従来は「年間80兆円」としていた国債購入の目安を撤廃し、国債を制限なく購入できるようにしました。いわば日銀があらかじめ国債売りの動きにクギを刺すことで、政府は思い切った財政出動に乗り出しやすくなったわけです。

各国の中央銀行が“禁じ手”に乗り出している

こうした国家財政と金融政策があたかも一体となったかのような経済運営は、実は今に始まった話ではありません。専門家の間ではアベノミクス以降のいわゆる異次元の金融緩和政策が、日銀による実質的な「財政ファイナンス」に当たるのではないかとたびたび指摘されてきました。日銀が国債発行残高の5割を買い集め、「金利低下→利払い費の低位安定」というかたちで間接的に政府の財政を支えてきたからです。

財政ファイナンスとは、中央銀行が政府の発行する国債を流通市場で購入せずに直接引き受けて、財政赤字を補てんすること。財政規律を損なって通貨の信認が失われ、極端なインフレにつながる恐れがあることから、主要国では法律で原則禁じられています。

その“禁じ手”が、ここにきて海外でも目立つようになっています。FRB(米連邦準備理事会)は3月に08年以来となるゼロ金利政策を導入し、国債などを買い入れる量的緩和政策も再開しました。国債の購入規模を事実上の無制限とすることで、米国政府による巨額の経済対策を支援する構えです。ユーロ圏や英国でも中央銀行の国債購入を支えに、各国政府が積極的な財政出動に動いています。

アジアの国々はもっと露骨です。インドネシアやミャンマーでは中央銀行が自ら財政ファイナンスの実施を認めているほか、フィリピンでも条件付きで中央銀行による国債の直接購入を容認しています。コロナ危機によって世界各国の経済政策もまさしく「非常事態」の様相を呈しているといえますが、気になるのは、こうしたなりふり構わぬ施策が将来的にどのような事態を招くのかということです。

過去の歴史をひもといてみましょう。例えばFRBは、第2次世界大戦の戦費調達に協力するため、1942年から長期金利の上限を2.5%と定め、3カ月物と1年物にも誘導目標を設定して大量の国債を買い入れました。長期金利の上限は戦後もしばらく維持されましたが、インフレ率が高まるなかで金融引き締めを主張するFRBと、国債管理のため低金利の継続を求める財務省との対立が決定的となり、51年にようやく両者がこの政策の幕引きで合意に至ったという経緯があります。

日本とドイツも戦前から戦時中を通じて戦費調達のため財政ファイナンスを実施しましたが、敗戦後に猛烈なインフレに見舞われることとなります。日本政府は金融機関の預貯金について生活費などを除く部分の引き出しを禁ずる預金封鎖を実施したほか、古い紙幣を廃止して新日銀券のみ引き出しを認める「新円切り替え」も行いました。いわば国民から強制的に富の一部を奪う荒療治によって、債務の帳消しを図ったわけです。

過去の教訓では、財政ファイナンスが中長期的にみてうまくいった試しはなく、やがてはインフレの混乱に見舞われると考えるのが妥当ですが、足元では全く逆の懸念も生じ始めています

FRBが重視する米国の個人消費支出(PCE)物価指数は、4月の上昇率が0.5%と前月から0.8ポイントも縮小しました。コロナ危機は米国にデフレ圧力をもたらしており、需要の喚起がうまくいかなかった場合、超低金利環境が常態化する「日本化」のリスクを危惧する声も上がっています。欧州でも5月の消費者物価上昇率がユーロ圏19カ国中12カ国でマイナスとなり、デフレへの警戒感が強まりつつあります。

コロナ後の世界経済は、はたしてインフレとデフレのどちらに向かうのか――。次回は需要と供給および投資マネーの動向などにも目を配りながら、引き続きこの問題について考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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