株式投資をする際に必要な資金について、最新の動向を教えてください。
単元株が100株に統一されて投資家には一定のメリット
私たち一般の個人が株式を購入するにあたって必要な資金は、「株式そのものの購入代金」と「手数料」の2つに大別されますが、両者ともに減少へ向かうというのが最近のトレンドになっています。
株式そのものの購入代金は「当該銘柄の株価×購入株数」で表されます。証券取引所を通じた一般的な株式投資では、あらかじめ売買株数の単位が決められており、国内の上場株式については100株ごとの売買となっています。すなわち、私たちが日本の上場株式を購入する場合の最低単位(単元株)は原則として100株ということになります。
今年(2020年)2月3日の終値でみると、パナソニックの株価は1075.5円で、東レは718.7円です。それぞれの株価に単元株の100株をかけると、購入に必要な最低金額はパナソニックが10万7550円、東レが7万1870円になります。まだ高いと思う人もいるかもしれませんが、実は以前に比べるとこれでも十分にハードルは低くなったと言うことができます。
かつては単元株の決定が企業の裁量に任されていたため、例えば07年の時点では1株から2000株まで8種類の売買単位が存在し、銘柄によっては株式購入に最低でも数千万円を要するケースも見られました。その後、投資家の利便性向上を図るために全国の証券取引所が売買単位の改革に乗り出し、18年10月にようやく単元株が100株に統一されたのです。
2月3日現在、東証1部上場株式のうち購入最低金額が8万円以下のものは前述した東レを含む471銘柄で、5万円以下に絞っても199銘柄があります。全体として最低金額が下がったことで、一般個人が株式投資を始めやすくなったことはもちろん、分散投資やNISA(少額投資非課税制度)の活用がしやすくなるなど、投資家にとって一定のメリットにはつながったと考えられます。
意外なことに、米国の株式市場にはそもそも単元株という考え方が存在しません。株価の高低に関係なく、投資家はすべての銘柄を1株単位で売買することができます。日本が単元株にこだわる背景には、取引額が小さくなると株価の変動が大きくなりやすいことや、株主が増えることで株主総会への招集など企業の管理コスト増加が懸念されるといった事情があるようです。
1株売買や手数料無料化などサービスを競うネット証券
これから株式投資を始めようと思っている初心者や、無理のない範囲で分散投資に挑戦したいと考えている個人にとっては、もっとお手ごろな金額で株式を購入したいというのが本音かもしれません。より小さな金額で株式投資を行う方法として、単元株に満たない株数を購入するという手もあります。
auカブコム証券(旧カブドットコム証券)やSBI証券、マネックス証券などの大手ネット証券に口座を開けば、1株単位から株式を売買することができます。19年にはスマホでの取引に特化した新しいタイプのネット証券として、SBI証券グループのネオモバ(SBIネオモバイル証券)および、LINEと野村ホールディングスが共同設立したLINE証券が開業しました。これらは「スマホ証券」と呼ばれており、いずれも1株単位で株式を売買できるほか、自社で扱うポイントを使った株式購入も可能になっています。
株数ではなく購入金額そのものを非常に小さく設定する方法もあります。SMBC日興証券のオンライントレードでは、投資家が自分で指定した500円以上500円単位の金額で株式を購入することができます。auカブコム証券では、毎月500円以上1円単位で株式の積み立てを行うことも可能です。
単元株未満で株式を購入する際には、いくつか注意点があります。配当は保有株数に応じて受け取れますが、株主優待は受けられないケースがほとんど。議決権もないため、株主総会には出席できません。証券会社によっては購入できる株式銘柄が限定される場合もあります。
また、1株単位での購入は証券会社との相対取引となるため、注文から約定まで半日程度かかるのが一般的です。唯一の例外としてLINE証券では購入がリアルタイムで成立しますが、スプレッドと呼ばれる取引コストが購入価格に上乗せされるため、1日に何度も売買を繰り返す人には不利になる可能性もあります。
もうひとつ、私たちが株式を購入するにあたって重要なのが手数料の動向です。19年10月に米国ネット証券最大手のチャールズ・シュワブが株式売買の委託手数料をゼロにしたのをきっかけに、米国はもちろん日本のネット証券にも手数料無料化の波があっという間に押し寄せてきました。
現状では、SBI証券が1日当たりの現物株取引と信用取引をそれぞれ50万円まで無料としており、楽天証券と松井証券でも現物株と信用の合計で1日50万円まで無料となっています。1日50万円まで無料ということは、単元株での購入ならば、上場株式の9割以上を手数料ゼロで買うことができます。
さらにSBI証券は22年までに、auカブコム証券は早ければ20年度中に、それぞれ現物株の手数料を完全無料化する目標をかかげています。こうした流れは投資家としては非常にありがたい話ですが、総収益に占める手数料の割合が20%超と高い日本のネット証券にとっては死活問題であり、専門家の間からは過当競争による淘汰を予想する声も上がっています。
ネット証券によるサービス競争の激化は、若者を中心とした初心者にも株式投資を促す試みとして、避けては通れないのかもしれません。ただし、前述した単元株をめぐる米国との違いにしても、どうやら中途半端に終わりそうな東証の再編問題にしても、日本の株式市場には活性化へ向けてまだやれることがたくさん残っているようです。