• いま聞きたいQ&A
  • 分散投資の対象として、どのような資産がふさわしいのでしょうか?(前編)
いま聞きたいQ&A

分散投資の対象として、どのような資産がふさわしいのでしょうか?(前編)

金(ゴールド)は株式や米ドルと異なる値動きになりやすい

分散投資の対象としてふさわしい資産の条件とは何でしょうか。すでに株式や債券に投資していて、これからそれ以外の資産にも分散投資したいと考えている人の場合を想定してみます。

分散投資の本来的な意味や目的から考えれば、株式や債券とは異なった値動きをすることが必須の条件でしょう。長期の資産運用を目指すうえでは、将来的に資産価値の上昇ができる限り見込めることや、長期にわたって安定したリターンが期待できるといった点も重要になります。

こうした条件を踏まえながら、今回は最近再び注目が高まっている金(ゴールド)市場動向や将来性について検証してみたいと思います。金相場の国際指標であるニューヨーク金先物価格は、2019年9月に1トロイオンス当たり1560ドル台を付けて、6年5カ月ぶりの高値となりました。その後はやや下落基調に転じて、11月8日現在では1460ドル前後となっています。

歴史的に資産価値が目減りしにくい安全資産とみなされてきた金は、世界の投資家がリスクオフの姿勢を強めた時に買われやすく、リスクオンの姿勢を強めた時に売られやすい傾向にあります。すなわち、リスク資産の代表である株式とは異なる値動きになりやすいわけです

今回の価格上昇も直接的には、米中貿易戦争の長期化による世界的な景気後退への懸念が色濃く反映された結果でしょう。その後の価格調整は、米中に若干の歩み寄りがみられて緊張緩和への期待が高まったため、投資家の間にリスク選好ムードが広まったことが要因です。

金とは値動きが異なる資産としてもう一つ、為替を挙げることができます。金は各国の通貨のように発行体を持たず信用リスクもないため、投資商品であると同時に「無国籍通貨」としての側面も大きいといわれます。特に基軸通貨、米ドルの代替投資先としての性格が強いことから、金価格は米ドル相場と逆の値動きをみせるのが一般的です。

ところが18年ごろから、その関係に変化が生じてきました。金価格と米ドル相場が連動して上昇する局面が目立つようになったのです。これについてはなかなか興味深い背景が考えられます。

通貨制度の揺らぎが中長期的な価格上昇要因に?

金は信用リスクがない分、金利を生みません。その点が、例えば同じく安全資産と考えられる国債と比べた場合の弱点である、と以前からいわれてきました。しかしながら、今日では先進国の国債にマイナス利回りが目立つような状況です。相対的にみて、金の弱点は図らずも解消されることになったわけです。

国債のマイナス利回りをもたらした主犯は、日米欧をはじめとする先進国の中央銀行による長期的かつ大規模な金融緩和です。しかも、どうやら日米欧は将来的にインフレの脅威が目に見える形で表れてくる日まで、金融緩和を終了する気はないようです。

いつまでも金融緩和を止められないのは、金融正常化によって世界的な景気後退が早まることを恐れているからでしょう。逆にいえば、それほど現在の世界経済は足元がおぼつかない状態にあるわけです。金高と米ドル高の併存について、ある専門家は「ドル高をはね返すほど、安全資産としての金への投資需要が強い証拠」と指摘しています

金価格の高位安定には、ロシアや中国、ポーランドなど新興国の中央銀行による大量の金購入も一役買っています。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、世界の中央銀行の金購入量は18年に656トンと1971年以降で最高を記録しました。19年上期も374トンを買い増しており、18年を上回るペースで金購入を進めている様子がうかがえます

金購入の拡大で先頭を走るロシアには、米国の経済制裁に対抗するため、保有する米国債の一部をあえて金にシフトさせたという事情もあるようです。しかし基本的にはいずれの新興国にとっても、米ドルに偏りすぎた外貨準備資産の保全を図ることが金購入の真の目的だと考えられます。

金融緩和とは極端な言い方をすれば、新たに紙幣を刷りまくって世の中にばらまくようなものです。日米欧が金融緩和を続ければ続けるほど、自国通貨である円やドル、ユーロの価値は薄まることになります。WGCによれば、中央銀行の金購入が18年より多かったのは50年以上前の1967年まで遡るとのこと。当時は英ポンド危機の渦中にありましたが、やがて通貨不安は米ドルにも及んで、ニクソン・ショック(71年)や変動為替相場制への移行(73年)につながっていきました。

そして現在、再び主要通貨の信用にほころびが見え始めたことを、投資家も新興国の中央銀行も敏感に感じ取っているのではないでしょうか。だとすれば金はこの先、景気後退への懸念という短期的な要因だけでなく、通貨制度の揺らぎという中長期的な要因からも買われ続けることになるかもしれません。

金が安全資産として本領を発揮しやすい要素や舞台はそろいつつあるわけで、金はこれから分散投資を行う人にとって有望な対象となるような気がします。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。