PERなどの株価指標は、どのように活用すればいいですか?(前編)
横軸・縦軸という2つの視点を意識すること
PER(株価収益率)の計算式をもう一度、確認しておきます。
- PER(倍)=株価(円)÷1株当たり当期純利益(円:予想値)
分母の1株当たり純利益は予想値なので、PERは企業がこれから獲得するであろう純利益に対して現在の株価がどのような水準にあるかを表していることになります。すなわちPERとは、企業の将来的な価値(利益)がどうなるかという予測をもとに、現時点における株価の割安さを測るものと定義できるわけです。
計算式から分かるように、PERは分子の株価が上昇するか、分母の1株当たり純利益が減ることによって高くなります。逆に株価が下落したり、純利益が増えるとPERは低くなります。ただし、こうした関係だけで株価の割高・割安を判断するのは難しく、私たちが実際にPERを活用するにあたっては、横軸・縦軸という2つの視点を意識することが大切になります。
横軸とは「業種ごとに複数の銘柄間でPERを比較すること」、縦軸とは「ひとつの銘柄についてPERの推移を時系列で追うこと」をそれぞれ意味します。このうち横軸に関しては、まず業種ごとにPERの平均値が大きく異なることを知っておく必要があります。業種が異なればビジネスモデルや業績の変動要因は異なり、投資家が期待する利益水準や成長性も変わってくるからです。
近年の傾向からみて、PERの平均値が高めの業種としては医薬品やサービスなど、反対に低めの業種としては石油や銀行などを挙げることができます。東京証券取引所が発表した東証1部市場に関するデータによると、今年(2019年)7月末時点で全銘柄の平均PERは14.6倍でした。業種別の平均PERは医薬品が26.6倍、サービス業が22.2倍、石油・石炭製品が6.3倍、銀行業が9.8倍となっています(PERの値はいずれも連結・加重平均ベース)。
医薬品やサービス業のなかには、創薬ベンチャーのペプチドリームやカード決済代行のGMOペイメントゲートウェイなど、PERが100倍を超えている銘柄もあります(19年8月19日現在)。特にサービス関連で新しい市場を開拓するような企業は、投資家が将来的な利益水準の伸びを期待して先回りの「買い」を入れている可能性があるため、PERが高いからといって割高とは限らないケースも考えられます。
PERが“ずぬけて”高い銘柄には注意も必要です。16年6月末にPERが100倍を超えていた約120銘柄について3年後を調べると、株価が当時より上昇していたのは5割にとどまりました。同じ3年間で上場企業全体の7割において株価が上昇したことを考えると、PERが100倍を超える銘柄のなかには割高なものも多分に含まれていたとみるのが妥当ではないでしょうか。
投資家のイメージと企業実態のギャップに着目
石油のPERが低い背景としては、原油価格の動向によって在庫の評価益が変動しやすいうえに、中東情勢などを巡って市況も読みにくいため、投資手控えの動きが出やすい事情があるようです。また、銀行は日本銀行によるマイナス金利政策の導入以降、利ざや縮小や融資先の減少傾向が目立っており、純利益が大きく増えることは考えづらい状況が続いています。PERが低いからといって、株価が単純に割安とは言えないのが現実かもしれません。
こうしてみると、投資家がその業種に対して描くイメージが各銘柄の株価水準をある程度、規定することが分かります。それを逆手にとるならば、同じ業種内でPERを比較する際には、投資家のイメージと企業実態とのギャップに着目することで割安な銘柄を探しやすくなる、とも考えられます。
例えば産業ガスのエア・ウォーターは、業種としては化学に属していますが、景気敏感株として知られる石油化学メーカーと同様に業績のぶれが大きいと見なされ、PERは低くなりがちです。ちなみに化学の平均PERは15.8倍、エア・ウォーターは11.5倍です。同社はM&A(合併・買収)を含めて医療や農業・食品関連などへ事業領域を積極的に広げており、構造改革を通じて業績の変動が少ない企業体質に変身しつつあります。
点火プラグの日本特殊陶業は、ガラス・土石製品の業種(平均PERは10倍)に属していますが、自動車の電動化による本業先細りが懸念されてか、PERは7.7倍と低めに位置しています。しかしながら、インドや中国が排ガス規制に乗り出したことで、排ガスセンサー事業の拡大が期待されるという側面もあり、「転んでもただでは起きない」しぶとさを感じます。(※個別銘柄のPERはいずれも19年8月19日現在)
次回はPERにおける縦軸の視点を中心に、引き続き株価指標の活用法について考えます。