• いま聞きたいQ&A
  • 投資という行為に、リターン追求以外の価値や意味はあるのでしょうか?(前編)
いま聞きたいQ&A

投資という行為に、リターン追求以外の価値や意味はあるのでしょうか?(前編)

企業利益の量だけでなく「質」も問われる時代に

経済・金融の分野で私たちが意識する“価値”には、大きく分けて2つの種類があるように思われます。ひとつは数値によって表される「測りやすい価値」です。これは資産価格や経済効率、経済成長率などを見る際には、いずれも数値の増減をそのまま付加価値の増減(向上・低下)として評価するのが一般的です。

もうひとつは「測りづらい価値」で、一例として飲食の形態を考えてみます。ファストフードが基本的に経済効率を最優先するのに対して、スローフードは人々が感じる快適さや心身の豊かさといった数値化できない価値観にアプローチするものです。いわばスローフードの理念そのものが付加価値にあたるものであり、普及やビジネス化にあたっては人々がその価値をどれだけ重要視するかがポイントになるわけです。

こうした観点を株式投資にあてはめた場合に興味深いのが、近年急速に広がりつつあるESG(環境・社会・ガバナンス)投資の動向です。

世界持続的投資連合(GSIA)によると、2018年のESG投資額は世界全体で約31兆ドルと、16年比で34%増加しました。欧州の約14兆ドルや米国の12兆ドルには及びませんが、日本も2兆ドルと2年前の4.6倍に拡大しています。年金基金や政府系ファンドなどがESGを重視した運用への転換を図っており、運用資金を受託するために運用会社もESG投資を積極的に推進せざるを得なくなっているのが現状のようです。

今年(19年)3月には、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金が石油・ガス関連株の一部を投資先から外す意向を示しました。対象は134社、投資額に換算すると約80億ドルで、ファンドの総資産の1.2%に相当します。同ファンドでは環境破壊に影響を及ぼしたり、核兵器製造への関与や人権侵害が疑われる企業などを対象に投資排除リストを作成しており、今回の決定も化石燃料の環境リスクを考慮した結果と見られます。

「お金に色はない」とか「お金に意思はない」などと言われるように、投資や運用においては元来、リターンの追求が唯一の行動原理とみなされてきました。その意味では、投資家のリターンにつながる利益をどれだけ多く生み出せるかという点こそが企業価値の判断基準だったわけです。ところがESG投資では利益の量だけでなく、それを生み出すプロセスを含めた企業活動の質的側面も問われるようになります

ESG投資もリターン獲得の道具にすぎないのか?

次世代に遺す財産として環境や社会の持続性などにもスポットを当て、貢献度の高い企業を選別して資金を配分しようというESG投資の理念は、一般生活者の立場からみれば望ましく受け入れやすいものでしょう。一方で純粋に投資家の立場でみると、「そのやり方で本当に十分なリターンが得られるのか」という素朴な疑問が湧いてきます

スイスの大手金融機関UBSアセット・マネジメントでは、MSCIの世界株指数に組み入れられている企業について、05年12月~17年12月の期間でESGが株価に及ぼす影響を計測しました。それによると、ESGの評価が最も高い企業群では、株式運用成績が指数を全期間で8%上回っています。フランスの資産運用会社アムンディが14~17年の期間を対象に行った調査でも、ESG評価が上位の企業群と下位の企業群の間では、株式運用の年平均利回りに4~7%程度の差がついています。

運用資金の受託側からこうしたポジティブなデータが提出されている一方で、全米最大の年金基金である米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)では、18年10月の理事選でちょっとした事件が起きました。これまでESG投資を主導してきた理事長が、ESG反対派の対立候補に敗れたのです。背景には、最近の運用成績がいまひとつ振るわないという事情がある模様です。

カルパースの年間運用収益率は17年度(6月末決算)が8.6%で、米国の代表的な株価指数であるS&P500指数の12%を下回っています。17年度までの5年間や10年間をとっても、運用成績は指数に及ばないのが実情です。カルパースの一件が世界のESG投資に今後どのような影響をもたらすのか、現時点では何ともいえませんが、ESG投資が必ずしも好ましい運用成果につながるとは限らないようです。

私たちはいま一度、ESG投資の意味するところについて真剣に考えてみるべきではないでしょうか。ESG投資に関する説明として、「財務データに表れない企業の見えない投資価値を測るもの」といった話をよく耳にします。この説明に間違いはないのですが、投資家があまりにこうした側面ばかりを重視すると、結局はESG投資も効率的にリターンを得るための道具にすぎない、という評価に落ち着きかねません

ESG投資が真に普及するためには、人々が投資におけるリターン向上などの利便性を超えたところで、ESG投資の理念そのものにもっと大きな付加価値を見いだしていく必要がありそうです。次回はその話にも触れながら、さらに大きな視点から投資という行為のあり方について考えてみます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。