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いま聞きたいQ&A

これから株式投資を始めるのに適した方法があれば教えてください(後編)

期待リターンが低い銘柄ばかりにあえて投資する

株式相場の変動率が大きい局面で有効とされる投資法のひとつに「低ボラティリティー戦略」があります。この戦略では相対的に価格変動性が低く、本来は期待リターンも低いと考えられる銘柄ばかりをあえて選んで投資します。投資理論上はリターン面で不利なはずですが、リーマン・ショックと金融危機が発生した2008年以降、市場平均を上回る好成績の例が報告されて注目を集めるようになりました。

投資対象は医薬や日用品、食品、公共、生活関連サービスなど、景気変動の影響を受けにくいといわれる業種の銘柄が中心になります。この戦略を採用しているブラックロック・ジャパンの「iシェアーズMSCI日本株最小分散ETF」について組入比率上位銘柄をみると、今年(18年)11月21日時点では日本郵政やセコム、近鉄グループホールディングスなど、公共や生活関連サービス銘柄に幅広く投資している様子がうかがえます。

低ボラティリティー戦略がなぜ変動率の大きい“荒れ相場”の局面で効力を発揮しやすくなるのか、理論的なメカニズムは判明していません。しかしながら、一部の専門家は「投資家の心理や志向が影響している」と指摘しています

多くの投資家は高いリターンを目指して値動きの大きい銘柄を選好する性質があり、特に相場の上昇基調が明確な局面ではそうした傾向が強まると考えられます。一方で、期待リターンが低い値動きの小さな銘柄は敬遠されがちになるため、基礎的な収益力が高くて当面の業績が良いにもかかわらず、投資対象として見落とされるケースが出てきます。こうして株価が割安になれば、いずれはその割安さに着目した買いが入ることになるので株価が上がりやすいというわけです。

注目したいのは、値動きが大きくて多くの投資家から期待を集めるような銘柄は、株価が割高になった段階でマイナス材料が出ると反動で失望売りを招きやすいということ。マイナス材料には世界的な景気減速懸念や米国の金利上昇観測といった、昨今市場で話題になっている海外要因も含まれます。値動きの大きい銘柄に比べると、低ボラティリティー銘柄はマイナス材料に対する投資家の反応が鈍いため、株価の下値が限られる傾向が強いといわれています。

どのような時代にも割安株投資は存在する?

最近は日米で株価急落が相次ぐなど、株式相場の変動率が高まりつつあるわけですが、今後の株式市場において低ボラティリティー戦略がどこまで功を奏するかについては定かではありません。ただし、目先の有効性はさておいても、このような戦略が登場してきたこと自体が現在の世界的な株式投資の潮流に関して大きな示唆を与えてくれるような気がします。

ここ数年、市場関係者の間で「バリュー株(割安株)投資が機能しなくなった」という意見が目立つようになりました。企業情報のオープン化が進んで投資家間の情報格差が縮小し、株価のミスプライス(ゆがみ)が発生しにくくなったことが背景にはあるようです。結果として本来的な意味の割安株投資、すなわち現状の株価が実力以上に安いと考えられる銘柄から、企業分析を通じて数年後に株価の上昇が期待できそうなものをピックアップしていく投資法が通用しなくなったというのです。

この意見がおおむね正しいとしても、だからといって割安株投資がもはや過去のものだとは断定し切れないのではないでしょうか。前述のように、低ボラティリティー戦略も広義では割安株投資としての側面を持っています。金融の情報化やデジタル化がどれだけ進もうとも、人間の心理や志向の“偏り”が消えることはないわけで、どのような時代にも投資家によって生み出される割安株と、それに着目した割安株投資は存在するのだと思います

東証1部市場で直近の売買シェアが約7割を占めるといわれる外国人投資家は、株価が割高でも優良な銘柄とみれば上昇相場に乗ることを好む傾向が強いようです。過去数年の世界的な株式投資のトレンドをみると、年金基金からヘッジファンドまで主要な機関投資家がこぞって、アップルやアマゾン・ドット・コムなど米国の高成長ハイテク株への集中投資を進めてきました。そして現在、これらに失速の気配が漂い始め、多くの投資家が慌てふためいているというわけです。

先進国の株式で構成される「MSCIワールド指数」は、成長株が優位な時期と割安株が優位な時期が10年ごとに交代してきた歴史があります。09年末から始まった成長株相場は転換点が近いと考えることもできるため、例えば低ボラティリティー銘柄などをとっかかりとして割安株投資を始めてみてもいい頃合いかもしれません。

注意点がひとつ。低ボラティリティー銘柄のなかには、長引く低金利による運用難の環境下で、いわゆる「債券代替」の投資先として人気を集めたものもあります。金利動向によってはこの先、一部の銘柄で株価が下落基調を強める可能性もあるため、銘柄選びと購入時期にはより慎重な判断が求められそうです。前回紹介した配当利回りやPER(株価収益率)などの指標を使って割安度を確認するほか、購入時期を数回に分けるといった工夫も大切でしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。