長期の積み立てに適した投資対象を教えてください(後編)
より望ましい価格で集中投資したのと同じ効果
私たち一般個人にとって、長期で積み立て投資を行うことの意味は大きく分けて2つあると考えられます。
- ①まとまった資金がなくても、少額ずつ無理のない範囲で投資できる
- ②購入時期を複数に分けることで、いわゆる「高値づかみ」を避けやすくなる
このうち②については、いまひとつピンと来ないという人も多いかもしれません。具体的にどのような効果が得られるのか、投資信託を毎月3万円ずつ1年間にわたって積み立てたと仮定して、数字で検証してみましょう。話を分かりやすくするために、投信の基準価額の動きは極端に設定してあります。
このケースでは1年間で36万円を投資して合計47.9口を購入したこととなり、1口あたりの平均購入単価(基準価額)は7,515円です。13カ月目に投信を売却した場合、得られる金額は57万4,800円で、投資成果はプラス59%となります。
積み立てではなく36万円を一度に投資した場合も考えてみます。12,000円という売却時の基準価額からみると、1カ月目や3カ月目、4カ月目に集中投資していたら高値づかみになってしまい、収益が出なかったことになります。積み立てでは基準価額が高い時には少ない口数を、安い時には多くの口数をそれぞれ買うことで購入単価がならされていくため、結果として高値づかみを避けやすくなるわけです。
さらに違った観点からみてみましょう。上記の積み立てケースは、後から振り返れば「基準価額が7,515円の時点で36万円を一度に投資した」のと同じことです。現実問題として、実際に基準価額が7,515円の時点で「いまが買い時だ」と判断して、36万円を一度に投資することはそれほど簡単ではありません。
積み立てでは高値づかみを避けながら、結果的に「より望ましい価格」で集中投資したのと同じ効果が得られることになります。投資期間中の値動きの性質によって効果の大きさが変わることには注意が必要ですが、その効果は投資期間が10年や20年に延びても、すなわち投資総額が360万円や720万円に増えても同じように得られるという事実には、改めて注目すべきではないでしょうか。
個別株の積み立ては投資手法が限られる点がネック
積み立て投資が有効に機能するためには、ある程度の期間にわたって価格が低迷したうえで、売却時に価格が大きく上昇していることが条件――といった意見も聞かれます。しかし、数十年の長期で積み立てを考えるならば、こうした条件を現時点で気にする必要はありません。これから数十年間で投資対象の価格がどのように動くかなど、誰にも分からないからです。
以上のことを踏まえると、数ある金融資産のなかでも特に購入タイミングが難しいといわれる個別株などは、本来的には長期の積み立てに最も適した投資対象ではないかと思われます。個別株は通常、ある程度まとまった金額を用意しないと買えませんが、それを投信の場合と同じように毎月1万円ずつなどの小口資金で購入できるならば、そのメリットも大きいでしょう。
ただ、現状で個別株の定期定額購入が可能な投資手法は「株式累積投資」(るいとう)ぐらいしか見当たらないのがネックとなります。取り扱っているのは証券会社など一部の金融機関に限られるうえ、「NISA」(少額投資非課税制度)や「iDeCo」(個人型確定拠出年金)などの投資優遇税制にもこの投資手法は採用されていません。
一方、積み立て投資にまったく異なる意味合いを見いだすこともできます。iDeCoでは1年間に投資した金額がすべて税控除の対象となるため、人によっては投資資金を拠出すること自体に意義があるというケースも生じてきます。
特に自営業者は1カ月あたりの投資上限金額が6万8,000円と大きめに設定されており、この上限近くまで積み立てを行う場合には、リターンはほどほどでいいからむしろリスクを抑えたいというニーズも出てくるかもしれません。定期預金を選ぶ手もありますが、あくまでも投資にこだわるならば、価格変動リスクが相対的に低い国内債券投信やバランス型投信なども対象候補になってきます。