初心者がこれから投資を始める際は、何から手をつければいいですか?(後編)
米国の金利上昇はどのような形で進むのか
前回に引き続き、経済・金融の現状について考えます。繰り返しになりますが、米国をはじめとして先進国は現在、いずれも金融政策の正常化へ動いています。それが世界の経済・金融に及ぼす影響については侮らない方がいいでしょう。
例えばグローバルに流通するドルの量を示す「ワールドダラー」は、2017年10月末時点で約6.9兆ドルと過去10年で3.4倍に増えていました。金融正常化によってこのマネーが縮小した際に何が起きるのか、もはや誰も正確に見通すことはできません。しかも、今後は市場にばらまかれたユーロや円も数年をかけて大量に回収されることとなります。現在はそうした予測不能な局面の始まりに位置しているということを、肝に銘じておく必要があります。
米国では完全雇用に近い状況で巨額の減税と財政出動が予定されており、これらは米国のさらなる景気過熱やインフレ加速の要因となります。減税と財政出動による財政赤字の拡大分は米国債の増発によって賄われることになりますが、いまFRB(米連邦準備理事会)が国債の保有額を減らしつつあることと合わせて考えると、今後は米国債の需給悪化が予想されます。すなわち市場に出回る国債が増えて国債価格が下落し、利回りは上昇に向かうという図式です。
また、最近のようなドル安がしばらく続いた場合には米国内で輸入物価の上昇をもたらすため、同じくインフレの要因となります。インフレ懸念の大きさから、FRBも今年(2018年)は利上げペースをある程度、速めざるを得ないでしょう。こうしてみると、米国における金利上昇の圧力は想像以上に大きいことが分かります。
問題はこの先、米国の金利上昇がどのような形で進行するかということです。どこかのタイミングで長期金利が4~5%台まで急上昇するようだと、低金利下で借金を膨らませた企業にとっては業績の下押し要因となるため、米国の景気にブレーキがかかるかもしれません。金利上昇にドル高が伴った場合、新興国ではドル建て債務の負担増加や自国通貨安を通じた投資マネーの流出が懸念されます。世界的にリスクオフの流れが広がって、またぞろ予期せぬ円高が進むかもしれません。
一部の市場関係者からは、「2020年までに7割の確率で米国は景気後退期に入るだろう」といった不穏な声も上がっています。この予測が当たるかどうかはさておき、景気刺激策が生産能力の限界と金利上昇を招き、実体経済を減速させるという見解にはそれなりに説得力があります。米国における財政拡張策の影響は来年(19年)に入ってから顕著になるといわれており、少なくともその頃までは、米国の金利動向に為替や株式など世界の金融市場が大きく揺さぶられる状態が続くかもしれません。
為替がからむ投資は当面、相当に難しい
このような状況下で私たちがこれから投資を本格的に始めようとする場合、どんなことに留意すればいいのでしょうか。まず言えるのは外国債券や外国株式に投資するタイプの投資信託、外国REIT(不動産投資信託)、さらにはFX(外国為替証拠金取引)や金(ゴールド)など、為替がからむ投資は当面にわたって相当に難しそうだということです。
これまで紹介したような米国の景気や金利、経済政策などに各国の貿易交渉や地政学リスクも加わり、為替市場ではさまざまな思惑が入り乱れています。そのため為替相場が動く根拠が分かりにくく、特に初心者が投資について学習するという観点からみると、いささか敷居が高いような気がします。いわゆる「外もの」にどうしても興味があるという人でも、為替に振り回されない程度に少なめの資金で投資するのが無難でしょう。
国内の金融資産はどうでしょうか。金利が上昇していく局面に適した投資対象として、例えば変動金利型の個人向け国債(10年物)が挙げられます。満期まで保有すれば元利金が保証されるし、途中で金利収入が増えていくという期待も持てます。ただし、日本の長期金利がいつ、どれぐらいの規模で上昇を始めるのかはっきりしないため、リターンの面ではしばらく物足りない状態が続く可能性も否めません。
日本株関連では、一般に初心者向けといわれる投資対象として株式指数連動型のインデックス投信やETF(上場投資信託)があります。これらは確かに分かりやすさやコスト面などでメリットは大きいのですが、指数(市場平均)とは要するに「相場」であり、相場としてみた場合の日本株や米国株にはバブルの懸念が相変わらず付きまといます。これから何度か大きな調整が繰り返されても不思議ではないでしょう。
もちろん定期積み立てで購入すれば高値づかみのリスクは低減できますが、今後は過去に見られたような多くの銘柄が同時に値上がりするといった局面は望み薄なので、いまあえて相場に乗ることにこだわる意味は小さいようにも思われます。例えば景気や為替の影響を受けにくい内需株など、自分にとって身近な個別銘柄をいくつか選んで企業情報や株価動向をウオッチしながら、これぞと思える投資対象をじっくり探してみるのも一考ではないでしょうか。
個別銘柄でも「株式累積投資」などの購入手法を使えば、手数料は若干かかりますが、無理のない範囲内で株式投資が始められます。初心者だからといって、いきなり分散投資の完成形をめざす必要はありません。現状把握を繰り返しながら、徐々に投資の視野を広げていくといいでしょう。