いま聞きたいQ&A

日本の財政は今後どうなるのでしょうか?(前編)

財政赤字の垂れ流しが当面は続く?

安倍晋三首相が衆議院の解散・総選挙を決めたことで、政治のみならず経済の分野でもにわかに騒々しさが増してきました。安倍首相は今回の衆院選における争点のひとつとして、「消費税収の使途の見直し」を挙げています。2019年10月に予定している10%への消費増税を予定通り実施したうえで、増税分の使い道を子育て支援や教育無償化などにも広げる計画です。

現役世代の子育てや教育を巡る不安要素を減らすことが個人消費の拡大につながる、という読みがあるようですが、一方でこの政策が実行されると、国の財政健全化がいっそう遠のくことになりかねません。例えば安倍政権はこれまで、20年度に国と地方の基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス)を黒字化するという目標を国際公約に掲げてきましたが、この目標は事実上の先送りが決まりました

PBは政策に必要な経費を国債などの借金に依存せず、税収などでどのくらい賄えるかを示します。その意味合いを分かりやすくするために、日本が抱える債務問題について確認しておきましょう。財務省の発表によると、今年(17年)3月末時点における日本の政府債務残高は1,071兆円に上ります。前年比では22兆円の増加ですが、2000年以降でみると、日本の公的部門は平均して年に30兆円規模の財政赤字を垂れ流してきた計算になります。

つまり現在の日本は、①すでに積み上がった巨額の公的債務②毎年増え続ける財政赤字――という2つの債務問題にさらされているわけです。一般論としては、まずは②を減らすことから手をつけるのは至極当然であり、PBはその実現度合いを示すもの、ということができます。

内閣府が今年7月に公表した財政試算によると、今後の日本が実質2%・名目3%という高い経済成長率を継続的に実現した場合でも、PBを黒字化するためには20年度に8兆円を超える収支改善が必要です。日本経済の実力を示す潜在成長率は内閣府の推計で1%にとどまっており、実質2%の経済成長を続けるという前提はそもそもハードルが高いため、以前から20年度のPB黒字化は達成が困難と見られていました。

政府はこれまで、消費税率を8%から10%に引き上げる際に得られる5兆円強の財源のうち1兆円を社会保障に、4兆円を借金減額(財政健全化)にそれぞれ充てると説明してきました。その4兆円の一部が教育関連に回されることで、PBの黒字化が先送りされることはもちろん、国家財政にさらなる悪影響をもたらす恐れも出てきます。

消費税増収分の使途が社会保障以外にも広がると、今後は防衛費や公共事業の拡充、科学技術費の積み増しなど、他の分野からも歳出増の要求が相次ぐ可能性があります。もともと財政健全化が一大目標だったにもかかわらず、使途拡大の先例をつくることによってタガが緩み、消費増税が歳出拡大の材料として使われる懸念が高まってしまうわけです。

2020年代に日本経済は大きな試練に直面する

もちろん財政健全化のために、PB黒字化をひたすら目指せばいいというものでもありません。今回、安倍首相は消費税収の使途を見直すにあたって「全世代型社会保障」という理念を掲げており、それを前向きに評価する声が多いのも事実です。高齢者に偏った国の予算を是正して現役世代の支援を手厚くすれば、社会の活力を高めることにつながるという考え方は、確かに一面としては正しいでしょう。

しかしそれならなぜ、債務問題の要諦である社会保障費に手をつけようとしないのでしょうか。日本では過去20年間、税収はほぼ横ばいだったのに対して、社会保障費は2倍以上に膨らんでいます。歳出の増加分のほとんどを占める社会保障の問題と正面から向き合わない限り、財政健全化はいっこうに進まないし、多くの国民が感じている将来不安は解消されません

市場関係者の間では、東京五輪を節目として2020年代に日本経済は大きな試練に直面する、といった声が多く聞かれます。まず五輪に向けては官民によるインフラ投資や消費の上積みといった経済特需で盛り上がるものの、以降はその反動が顕著となる、すなわち外国人投資家を中心とした「日本売り」が加速するといわれています。

25年には戦後に生まれた「団塊の世代」が全員75歳以上に達し、医療や介護などの社会保障費が急増して、現役世代への重圧は今以上に高まる見通しです。IMF(国際通貨基金)は今年7月、日本に対して消費税率を15%に引き上げることや所得税の課税ベースの拡大、年金の支給開始年齢を67歳以上に後ろ倒しすることなどを提言しました。海外からみれば、事態はかように深刻なわけです。

日本で財政悪化に対する危機感が高まりにくいのは、日銀の金融緩和によって長期金利が低く抑えられていることも一因ですが、その日銀もいずれは金融緩和の出口に向かわざるを得ません。次回はこうした話題も含めて、引き続き日本の財政を取り巻く問題について考えます。

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