投資や運用の合理性について、どのように考えればいいですか?(後編)
値動きを受け入れるか否かという二者択一
投資の合理性を左右する最大のポイントは、私たちが実際に投資を始める「前段階」にあるのかもしれません。例えば投資対象の値下がりがどうしても気になるという人は、最初から値下がりを意識しないで済む対象を選んで投資すればいいのではないでしょうか。すなわち国債や社債を購入し、償還まで持ち切るという方法です。これらにも信用リスクはありますが、償還まで持ち切ると決めてしまえば、少なくとも日々の値動きを気にかける心労からは解放されます。
逆に長期運用で期待するリターンとして国債などの利回りでは物足りないと感じるならば、株式や投資信託などのリスク資産に投資して、値下がりも含めたある程度の値動きを受け入れることが、どうしても必要になってきます。この場合、値動きに一喜一憂しないために、リスク資産の購入後はなかば“ほったらかし”にできるぐらい自分の投資に自信や確信を持ちたいところです。そこでは投資に関する最低限の勉強と、慎重な投資先選びが必要なことは言うまでもありません。
結局のところ、私たちの投資に対する基本的な姿勢は、リターンの源泉となる値動きを積極的に受け入れるか否かという二者択一によって決まるのだと思います。この二者択一は言い換えれば、私たちが投資において何を諦め、何を捨てるのかという選択にほかなりません。心理的な安定のために値動きのリスクを受け入れたくない人はリターンの大きさを諦め、あくまでもリターンを追求したい人は、さして努力しないでも資産を殖やせるという幻想を捨て去るわけです。
問題は、多くの人がこうしたシンプルな二者択一にとどまらず、もう一歩先のステップまで考えを及ぼすことにあります。国債や社債より期待できるリターンが高く、なおかつ値動きも小さい投資対象はないだろうか―― そう考えたくなる気持ちはよく分かりますが、値動きのリスクを必要以上に恐れながら一方ではリターンを欲張ろうとする自己矛盾にこそ、投資の非合理が潜んでいるのではないでしょうか。
例えば私たちが外国債券投信を購入した場合、直接的な値動きとは投信の「基準価額の動き」を指しますが、その基準価額は外国債券の値動き(価格変動)だけを反映しているわけではありません。そこには外国債券の金利収入や為替損益も含まれています。つまり私たちが外国債券投信で期待するリターンの裏側には、外国債券の価格変動リスクや信用リスク、さらには為替リスクといった複数のリスクが存在していることになります。
こうしたリスク構成で運用されている投信は、たとえ普段は基準価額の動きが緩やかに見えても、金融環境が激変するような局面では意外と大きな値下がりに見舞われる可能性があります。もしも個人投資家がそうしたリスクの全貌を知らないままに投資して、値動きの相対的な小ささに安心や満足を感じているのだとしたら、実は彼らは非合理な姿勢で投資に臨んでいることになります。
高値づかみと安値売りが非合理な取引価格をつくる
値動きという観点でみるならば、投資における合理性とは「安く買って高く売る」ことに尽きます。ただし、こうした投資の基本を実践するのは意外と難しいのが現実のようです。
ある投信の購入者が実際にどれぐらいの利益や損失を計上したのかについては、保有者全体の損益を平均値として推計した「インベスター・リターン」という指標で調べることができます。投信評価会社モーニングスターの公表データによると、今年(2017年)3月末までの過去10年間に運用成績が上位だったアクティブ型の日本株投信では、インベスター・リターンが基準価額の騰落率を大きく下回るものが目立っています。
これは投信を高値で購入(高値づかみ)した人や、安値で売却(安値売り)した人が多いことを意味します。背景としては、株式相場が上昇して株価が全体的に割高になってから投信を購入したり、相場が下落に転じると不安にかられて早々と売ってしまうような、いわゆる相場追従型の個人投資家が多いこと、が考えられます。
前述したモーニングスターのデータでは、投信の基準価額の騰落率が10年間で年率2%以上のプラスを記録しているのに、保有者の平均損益がマイナスになっているケースも見られました。10年間というのは長期運用の期間としてはいささか短いのかもしれませんが、その10年間でさえ投信を保有し続けることができず、自ら投資成果を損ねている人が多いわけです。
もちろんコストや運用の巧拙など投信自体の問題もいろいろあるため、一概に長期投資が合理的と言い切ることはできません。しかし、短期売買によって結果的に「非合理な取引価格」を自らの手でつくってしまうぐらいなら、まずは値動きや価格という呪縛から自分を解き放つことを考えてみてはどうでしょうか。
特に目新しい方法ではありませんが、定期定額購入による積立投資ならば、少なくとも投資における高値づかみは避けることができます。残る問題は安値売りを避けられるかということですが、本気で長期運用を実践するつもりなら、10年~20年後の価格について今から気にしても仕方ないでしょう。