昨年末から金価格が大幅に上昇し、非鉄市況でもアルミや銅、亜鉛の値上がりが顕著となっています。2005年は世界的に原油価格の高騰が大きな話題を呼びましたが、今年も農産物や金属資源の価格上昇は、折に触れてマネー市場の関心を集めることになるでしょう。
現在の資源・農産物の価格の上昇は、一過性のものではないという見方が増えています。日本をはじめ先進国は、ほんの1年前まではデフレの脅威にさらされていました。しかし景気の拡大が長期化するにしたがって、今や企業経営者の中でも当面の経営課題としてデフレを心配する者はいなくなり、代わって今やインフレを警戒するまでになっています。
米国で中央銀行の役割を果たすFRBは、今年1月に現在のグリンスパン議長からバーナンキ新議長に交代します。そのFRBでは、1987年から19年間にわたってトップの座にあり続けたグリンスパン議長が、最後の任務として米国からインフレの脅威をなくす利上げ政策を実施しています。
資源や一次産品価格の上昇の背景には、BRICsを中心に拡大する一方の新興工業国家の躍進があります。1980年を基準にすれば、2002年までに中国では原油の需要は+192%増えました。同じくインドも+240%増えています。特に中国は2001年12月のWTO加盟をきっかけに、経済発展が加速しており、それに伴って原油需要も2003年と2004年にはさらに大幅に伸びて、今や世界第2の原油消費国になっています。
2006年も中国は9%台の高い成長を続けると見られており、そこにインド、ロシア、ブラジルなどの新しい工業国家が続きます。地球環境への影響を考えて省エネ対策を進める先進国とは逆に、これらの新興工業国家では国家的な発展を最優先課題として、限りある天然資源をめぐって争奪戦を繰り返してゆくことになるでしょう。これが一次産品価格の急激な上昇を引き起こし、先進国でのインフレ懸念につながっています。
冒頭のご質問は、「商品の価格に連動するファンドや株式」にはどんなものがあるか、というものでした。答えは、株式ならば「鉱山や油田を保有している会社」、「鉱山や油田で掘削している会社」、「掘削のための機械類を生産している会社」、「掘削した資源を運搬する会社」などが挙げられます。前の2者が資源株、後の2者は資源関連株というように分類できるでしょう。またファンドならば、それらの会社に投資している株式投資信託、あるいはもっと直接的に、各種の商品に直接投資している商品ファンドがあります。
日本は資源小国であり、海外から資源を調達してそれを加工・組み立てることで収益をあげる企業が多いという構造を持っています。そのために資源価格の上昇は原材料価格を押し上げ、それだけで収益が圧迫されてしまいます。しかし「鉱山や油田を保有している会社」や「鉱山や油田で掘削している会社」は直接一次産品を販売しているために、資源価格の上昇によって収益は拡大します。しかし資源小国の宿命で、これまで日本には純然たる「資源開発会社」は民間企業にはなかなか存在しませんでした。
カリフォルニアのゴールドラッシュの昔から、炭坑や油田の採掘は事業としては最もリスクの高いものとされています。事業として行うには長期間にわたって大規模な投資が必要で、私企業として投資収益の回収には長い時間がかかります。しかもそれが必ず成功するとは誰にも保証できません。
明治時代から第二次大戦前まで、石炭の掘削が国家的事業として営まれていた時代には、財閥系企業の三井松島産業(1518)や三井鉱山(3315)、住友石炭鉱業(1503)などがありました。しかし戦後になると石炭は、石油に押されて急激な採算悪化に見舞われ、今ではこれらの会社は石炭事業を大幅に縮小しています。
石油に関して日本では、海外に進出して開発を担うのは、国家的事業として政府系の石油公団にほぼ全面的に委ねられてきました。しかしその石油公団が、2005年には小泉政権下での特殊法人改革の一環として廃止され、傘下に置かれていた子会社が民営化されて株式市場に上場を果たしました。それが石油資源開発(1662)と国際石油開発(1604)です。石油資源開発は主に国内での天然ガス田の開発を担い、海外での油田開発は国際石油開発が行っています。
天然ガス田の開発では、日本では古くから帝国石油(1601)が存在します。帝国石油も社歴をたどれば、1941年(昭和16年)に半官半民の国策会社としてスタートしており、戦後になって民間会社として再出発しました。その帝国石油は、昨年11月に国際石油開発と経営統合に踏み切ることに合意しています。
このほかにも石油会社としては、新日本石油(5001)、コスモ石油(5007)、昭和シェル石油(5002)などがあります。しかし海外の石油会社とは違って、日本の石油会社は石油精製会社の色彩が強くなっています。これは自らは油田を開発せずに海外から原油を輸入して、それをガソリンや軽油に精製・販売することによって収益を挙げています。したがって一口に「資源株」とは分類することは難しいと考えられます。
ただし新日本石油は、自らマレーシアに天然ガス田を開発しており、また経営統合を目指す帝石=国際石油開発に対して筆頭株主として新グループに参画する意向を示しています。非鉄金属に関しては、住友金属鉱山(5713)、三菱マテリアル(5711)、同和鉱業(5714)、三井金属(5706)、東邦亜鉛(5707)など日本の非鉄事業各社は大半が国内外で鉱山を保有しています。以上の企業群はいずれも資源株と位置づけられます。
資源関連株、すなわち「掘削のための機械類を生産している会社」や「掘削した資源を運搬する会社」の一角としては、建設機械のコマツ(6301)、日立建機(6305)、三菱重工業(7011)、竹内製作所(6432)などがあります。また「資源を運搬する会社」としての代表格は商船三井(9104)や日本郵船(9101)の海運会社です。
三菱商事(8058)や三井物産(8031)など総合商社は、伝統的に原油や鉱山物資の輸入を仲介することを本業としてきました。近年は総合商社自らが海外の探鉱会社や鉱山会社に直接出資しており、株式の保有を通じて鉱山や資源を部分的に所有しています。これらも資源株の一角に含めてよいでしょう。
資源価格に連動する株式としてもうひとつ、商品先物会社があります。商品価格が上昇することによって商品先物市場が活況になり、それによって委託手数料の増加が期待できます。日本ユニコム(8744)や小林洋行(8742)、豊商事(8747)のように商品ファンドを組成して販売する業務にも力を入れています。
以上、代表的な銘柄やセクターをいくつか挙げてみました。商品価格の上昇に連動する銘柄の裾野はかなり広がっていると言ってよいでしょう。