海外投資家に残る日本株の大きな「買い」需要
日経平均株価は今年(2013年)3月8日の終値で1万2,283円62銭となり、2008年9月のリーマン・ショック直前の水準を約4年半ぶりに回復しました。昨年11月半ばの衆院解散から4カ月足らずの間に日本株が急上昇した経緯について、簡単にまとめると以下のようになります。
- 1. 欧州債務危機や米国の「財政の崖」問題、中国の政治混乱リスクなど、可能性は低いものの現実に起きると影響が甚大な「テール・リスク」がひとまず後退し、日米欧の金融緩和も当分は続きそうなことから、市場参加者がリスク投資を積極化する「リスク・オン」の流れが明確になった。
⇒先進国債券などの安全資産から株式などのリスク資産へと、世界の投資マネーが移動を始めた。 - 2. ちょうどタイミング良く、安倍政権の「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が円安・株高につながるとして注目された。
⇒ヘッジファンドなどの短期投資筋はもちろん、年金基金など「ロング(買い)オンリー」といわれる海外の長期投資家たちも、国際分散投資の観点から、これまで低く抑えてきた日本株の保有比率の引き上げに動いた。
今回もやはり株価上昇を主導しているのは昨年(2012年)11月半ば以降、累積で4兆円超の日本株を買い越してきた海外投資家です。国内勢では銀行や生損保が株式投資から手を引く一方で、世界最大規模の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株の投資比率引き上げを検討しています。ただ、ポートフォリオの見直しには複雑な手続きが必要なため、GPIFが日本株の購入に動くのは2015年の春以降になる見通しです。
日本の個人投資家の間でも、すでに一部で日本株投信の購入を増やすといった動きが見られるほか、2014年からは「日本版ISA」(少額投資非課税制度)の導入も予定されており、今後は個人による株式投資の増加も期待できます。しかしながら、1,500兆円に上る個人金融資産のうち8割強にあたる1,300兆円弱は50歳以上が保有しており、どの程度の個人マネーがリスク資産である日本株に振り向けられるのか、予測しづらいのが現実です。
こうしてみると、日本株の今後を占うにあたっても、まずは海外投資家の動向が大きなポイントになると考えられます。例えば数量の点では、海外投資家には今後も大きな「買い」が期待できそうです。日本株の上昇ペースが速すぎて海外の機関投資家が買い遅れていることに加えて、円相場の下落傾向が続くなか、ドル建てによる日本株の上昇は限定的であり、海外投資家の資産に占める日本株の比率はそれほど増えていません。
みずほ証券によると、今年1月末時点で世界の株式に分散投資する投資家が保有している日本株の比率は、運用基準に比べて3.7%低い状態でした。彼らが日本株の保有比率を「中立」のポジションに戻すだけで、約10兆円の買い需要が発生することになります。
今後は成長戦略の実行性や企業の収益力に焦点が移る
海外投資家のさらなる買いが見込めるとはいえ、現状の株高については、安倍政権が掲げる金融緩和強化や財政出動への期待が先行している感が否めません。日本の昨年10~12月期における実質経済成長率は、前期比の年率換算で0.4%減と、3四半期連続のマイナス成長でした。
昨年10~12月期において実質経済成長率が0.1%増と小幅ながらプラスを記録し、2012年度の企業決算で史上最高益が相次ぐ米国などと比べると、日本経済にはまだ弱さが目立ちます。海外投資家の日本株に対する着眼点は早晩、円安など外部環境の改善状況から、実体経済の強さや成長の持続性へと、その重心が移っていくと思われます。
アベノミクスでいうならば、「3本の矢」のひとつである成長戦略の実行性が問われることになるでしょう。TPP(環太平洋経済連携協定)への参加や規制緩和を通じた成長産業の育成など、政府が成長戦略を確実に実行していくことが、日本株の上昇傾向が続くためのひとつの条件になることは間違いありません。
企業単位で見ると、今後は収益力(成長力)によって選別が進んでいくことが予想されます。一般に欧米の年金基金など長期投資家は、企業が株主のお金(自己資本)を使ってどれだけ効率的に利益を稼いだかを示すROE(自己資本利益率)を重視する傾向があります。『ROE=PBR(株価純資産倍率)÷PER(株価収益率)』という式から分かるように、PERが一定ならば、ROEが高いほどPBRも高くなります。
注目したいのは、主要な日本企業のROEもPBRも現在、欧米企業などに比べてかなり低い水準にあるということ。年金基金などの長期投資家が日本株への投資をこれからさらに増やす場合、お金を預けた人への説明責任を意識して、例えば日本株におけるPBRの低さに目を向ける可能性が高いのではないでしょうか。結果として市場ではPBRの上昇余地、すなわちROEの改善余地が大きい銘柄に人気が集まりそうです。