業績回復の勢いと投資指標からみた魅力
以前からいわれていることですが、日本株の動向について考えるとき、外国人投資家の存在を抜きにして語ることはできません。東京証券取引所などが今年(2011年)6月20日に発表した2010年度の株式分布状況調査によると、日本の株式市場における外国人の株式保有比率は金額ベースで26.7%となりました。これはリーマン・ショック前の2007年度(27.4%)以来となる高い水準です。
注目すべきは、外国人投資家が2010年11月から今年の5月まで29週連続で、日本株を買い越したことでしょう。15年ぶりに買い越し期間の最長記録を更新するとともに、累計買越額も4兆8,400億円と過去最高の金額です。特に東日本大震災の直後で株価が急落した今年3月の第3週には、9,552億円と史上2番目に多い買越額を記録しました。5月下旬からは売り越しに転じましたが、6月27日~7月1日には4週ぶりに2,515億円を買い越しており、外国人投資家の日本株に対する強気な姿勢が改めて浮き彫りになった格好です。
背景としては2つの理由が挙げられます。ひとつは、東日本大震災の影響で大きく落ち込んだ日本企業の生産活動がいち早く正常化に向かっていること。自動車や電気機器などのサプライチェーン(供給網)は、市場の予想を上回るペースで回復しつつあります。これから本格化する復興需要や企業・消費マインドの向上も加味すると、主要先進国のなかでは日本企業の業績回復に最も力強さを期待できるという声もあるほどです。
もうひとつの理由は、ここにきて投資指標から見た日本株の魅力が高まっていることですです。例えば企業の成長力の指標であるROE(自己資本利益率)を見ると、2011年3月期に決算を迎えた上場企業の平均は6.0%となり、前期比で2.1ポイント上昇しました。ROEが平均10%以上に達する欧米企業に比べると見劣りしますが、日本企業の財務レバレッジ(負債への依存度)がさほど高くないことから、現在のROEを「適度で健全な水準である」と評価する海外の市場関係者もいます。
一方、株価の割安さを示す指標のひとつである予想PER(株価収益率)を見ると、今年7月12日現在で東証1部上場全銘柄の平均が15.30倍となっています。こちらも欧米に比べると自慢できるほどの水準ではありませんが、もともと低下傾向にあったPERが大震災の影響でさらに低下したことや、割安さを示すもうひとつの指標であるPBR(株価純資産倍率)が1.06倍と相対的に低いことなどから、日本株を割安と捉える外国人投資家が増えているようです。
外国人に学ぶ「日本株に投資することの意味」
ある調査によると、外国人投資家の売買に左右されやすい日本株の銘柄、すなわち外国人投資家が日本株を買い越した局面で上昇し、売り越した局面で下落しやすい銘柄には、ROEが高くPERが低いという傾向があることが分かりました。現在、東証1部上場銘柄のなかには予想ROEが10%超で、なおかつ予想PERが10倍未満という、外国人投資家が好みそうな有名大企業が結構あります。外国人投資家による買いが今後もしばらく続くようならば、日本株全体はさておき、少なくともこうした個別銘柄のレベルでは株価の上昇が期待できるかもしれません。
外国人投資家のなかでも年金基金などの長期投資家たちは、銘柄選びに際して割安さや成長性などの相対的な価値基準だけでなく、もっと大きな視点から見た価値基準も重視しているようです。それは例えば、世界にこの企業がないと困るという「根源的な企業価値」であり、あるいはエネルギーや食糧問題といった世界が抱える「超長期テーマ」です。
同じような視点は、日本株式の投信を運用する一部のファンドマネージャーたちも以前から強調していましたが、それほど注目されることはなかったと思われます。しかし東日本大震災を通じて、最近はこうした話題が日本国内でもずいぶん目立つようになってきました。
今、私たち日本人が日本株に投資することの意味を考え直すチャンスなのかもしれません。日本株に投資するといっても、単にリターンを狙うだけでなく、投資を通じて被災地の復興に貢献するといった視点もあります。日本人の生活に役立つ優れた企業に投資して応援する一方で、既得権益にしがみつく企業にダメ出しをするのも投資家の責任といえます。