実行の容易さと納得性の高さが重要
私たち個人投資家が株式投資を行うにあたっては、投資の手法が大きなポイントになります。具体的には、その投資手法が私たちにとって「容易に実行できるもの」であり、なおかつ「自分で納得できるもの」であることが重要です。
こうした観点から割安株投資を考えるとき、ひとつのヒントになりそうなのが、証券投資分析の第一人者の井手正介氏が実践・推奨する投資手法です。
井手氏が割安銘柄を選別する基準は、
(1)予想PER(株価収益率)が市場平均以下
(2)予想ROE(自己資本利益率)が10%以上
(3)過去5年および今期のEPS(1株利益)が増益基調
(4)東証1部上場で時価総額が2000億円以上
――というもの。それぞれ、(1)は株価の割安さ、(2)は企業収益の効率性(収益力)、(3)は企業収益の安定性、(4)は投資する上での安全性(倒産リスクの低さ)を表します。
インターネットの検索機能を使えば、比較的簡単にPERやROEといった株式指標で銘柄をふるいに掛けることができます。さらに『日経会社情報』などを使ってEPSの推移を確認し、業種分散を考慮したうえで、最終的に投資対象を5~10銘柄に絞り込みます。各銘柄には同じ金額ずつ投資し、1年ごとに銘柄の見直しと入れ替えを行います。
業種については、企業が対象とする市場ごとに「国内・消費者」「国内・産業」「グローバル・消費者」「グローバル・産業」「オールマイティ(総合商社)」の5つに分類し、それぞれから1~2銘柄を選びます。井手氏によると、業種を上手に分散すれば、5~10銘柄程度でもリスクの低減は十分に可能だそうです。
このようなルールに基づき、井手氏が2004年7月から実験的に運用を行った結果、今年(2011年)8月25日の時点で運用成績はプラス10%となっています。その間、日経平均株価の騰落率はマイナス26%だった上、リーマン・ショックなどの影響で市場がたびたび大きな下落を記録したことを踏まえれば、割安株投資の効果は存分に発揮されていると見ていいでしょう。
井手氏の手法は、いわば「利益成長の余地が大きいにもかかわらず株価が割安な銘柄を機械的に選んで投資し、その割安さが薄れるまで保有する」というものです。投資や継続保有の基準が明確なため、一般的な個人投資家にとって、必要以上の手間をかけずに、ある程度高い納得性が得られる株式投資の手法といえそうです。
買いと売りの根拠が明確な投資を目指す
大和住銀投信投資顧問で日本株投信のファンドマネージャーを務める窪田真之氏も、井手氏と似たような発想で割安株投資の手法を推奨しています。窪田氏が割安銘柄を選別する基準は、
(1)PBR(株価純資産倍率)が0.4~0.6倍
(2)直近の営業利益率(営業利益÷売上高)が5%以上
(3)リーマン・ショックがあった2008年度においても営業利益率が大きく低下していない
(4)自己資本比率が30%以上
――というもの。それぞれ、(1)は株価の割安さ、(2)は企業の収益力、(3)は企業収益の安定性、(4)は財務内容の健全性を表します。
こちらはPBRに着目したものですが、一般にPBRが0.5倍を上回る銘柄においては、たとえ収益力が安定していても利益成長の余地はさほど大きくないため、株価の大幅な上昇は見込みづらいといわれます。そのため、この投資手法においては、例えばPBRが0.4倍の銘柄を購入したら、それが0.6~0.8倍の水準まで株価が上昇した段階で売却し、着実に投資利益を確保するのが得策のようです。すなわち「経営の安定性が高い銘柄を、株価が激安のときに買って、割安になったら売る」という考え方です。
株式投資においては今日、銘柄選別はもちろん、保有期間についての配慮や工夫も非常に重要になっています。とくに日本株はバブル崩壊を境に、右肩上がりの成長株から、一定のボックス圏で推移する景気循環株へ変質したと考えられます。そこでは株式を長く保有すればするほど、値上がりの機会とともに、値下がりのリスクにさらされる機会も増えることになります。
つまり、日本株投資では単純な「バイ・アンド・ホールド」よりむしろ、確実に利益を積み重ねていく「バイ・アンド・セル」の戦略が有効といえるわけです。今回紹介した2つの手法などを参考にしながら、私たちは今後、「買い」と「売り」の双方で根拠がより明確な株式投資を目指すべきでしょう。ひいてはそれが、株式テーマなどの投資環境に左右されたり、売り時を逃して塩漬けになるといった事態を避けることにもつながると思われます。
*ご紹介した投資手法は考え方の一例を提示したものであり、その手法を推奨したり投資成果を約束したりするものではありません。