株価指標を投資の初心者が使いこなすのは難しい!?
株式投資にあたっては、誰もが「できるだけ安い価格で購入したい」と願うもの。株価の割安さを判断するモノサシとしてPER(株価収益率)などの株価指標がありますが、その意味するところを知れば知るほど、実は使いこなすのが難しいことに気付きます。投資に慣れるまでは、シンプルな使い方に徹するのがいいかもしれません。
銘柄購入の判断基準として何に着目すればいいですか?
株式投資で売買益(キャピタルゲイン)を得るためには、株式を「安く買って高く売る」必要があります。しかし、私たちはいずれの株式銘柄についても、株価がこれからどのように動くのかを正確に予測することはできません。だからこそリターンを目指すにあたっては、可能な限り安い(割安な)価格で株式銘柄を購入しておくことが重要になってきます。
株価の割安さを判断するモノサシとして最もポピュラーなのが、PERという株価指標です。「PER(倍)=株価÷1株あたり純利益」の計算式によって求められ、企業の1株あたり純利益(税引き後の利益)に対して、現状の株価が何倍になっているかを表します。
PERの見方には大きく分けて、「他社比較」と「時系列比較」の2つがあります。他社比較とは、ある時点においてPERを複数の銘柄間で比較するもので、感覚的には「ヨコの比較」になります。時系列比較とは、ある銘柄のPERを現在と過去で比較するもので、感覚的には「タテの比較」です。
一見すると、PERの他社比較や時系列比較を通じて、どの銘柄についても株価が割安かどうかを容易に判断できそうな気がしますが、実際にはそれほど単純ではありません。
例えば、業種によって平均的なPERは大きく異なります。今年(2023年)1月11日時点における東証プライム市場の業種別平均PERを、構成銘柄数が50以上の業種に絞って見てみましょう。低い業種としては銀行(8.6倍)や建設(12.1倍)、不動産(12.3倍)などが、高い業種としては情報・通信(40.5倍)や食料品(30.1倍)、小売り(30.1倍)などが挙げられます。
業種ごとにビジネスモデルや業績の変動要因は異なるため、業種によって投資家が期待する利益水準や今後の成長性も変わってきます。一般に銀行などの成熟産業は今後の大きな成長が期待しづらいため、PERは相対的に低くなりがちです。一方で、IT(情報技術)サービス関連などの新興産業は成長期待が高いため、現状の利益水準と比較して株価が高くなりやすい、すなわちPERが相対的に高くなる傾向があるのです。
そのため、PERの他社比較においては同業種の銘柄どうしで比べるのが基本となります。同業種内でPERが低い銘柄が見つかったら、その理由を調べることも大切です。例えば業績や株価の上下動が激しい銘柄については、長期的な展望を描きにくいなどの理由から、投資家が購入を手控えることがあります。
PERが高いから必ずしも割高とは言い切れない
もうひとつ注意しておきたいのは、PERが高いからといって、必ずしも株価が割高とは言い切れない場合があることです。
東証プライム市場にPERが39倍の銘柄Aがあるとしましょう。今年1月11日時点で、東証プライム市場に上場する全銘柄の平均PERは13倍を少し上回る程度です。銘柄Aの株価が変わらないと仮定すると、PERが39倍から全銘柄の平均値である13倍まで下がるためには、1株あたり純利益が現在の3倍に増える必要があります。これは今後5年間にわたって、年率平均25%の利益成長を遂げることを意味します(1.25×1.25×1.25×1.25×1.25≒3.05倍)。
投資家がこうした利益成長を前提としているならば、銘柄Aの5年後の1株あたり純利益で計算したPERは13倍になると考えることができます。たとえ現状のPERが39倍と高くても、それを5年後に見込まれる純利益に基づいたPERに置き換えてみると、全銘柄の平均PERと比較しても割高ではないと解釈できるわけです。
そもそもPERの計算式で分母となる1株当たり純利益には、予想値を用いるのが一般的です。要するに「PERが真に意味するところ」とは、企業がこれから稼ぎ出すであろう将来の利益に対して、現在の株価がどのような水準にあるかということなのです。
こうしてみる限り、PERを株式投資の初心者でも使いこなせるかというと、そう簡単ではなさそうです。まず、それぞれの銘柄についてPERが低い、あるいは高い理由を調べなければなりません。それには過去3~5年程度にわたって売上高や純利益の推移をチェックすることはもちろん、事業そのものの成長性をイメージする社会経済的なセンスも問われてきます。加えて今後の利益成長の度合いをある程度、自分で見定める力も求められます。
あまり欲張って失敗しないためにも、最初はシンプルなPERの使い方に徹した方がいいかもしれません。例えばある銘柄について、時系列比較で過去のPERの推移を確認し、現状のPERが上限近くにあるなら株価は割高と判断します。反対に現状のPERが下限に近く、なおかつ少しでも業績の拡大が見込めるようならば、株価は割安と判断するのです。
株価の割安さを判断するモノサシとして、他にもPBR(株価純資産倍率)という株価指標があります。株式投資に慣れてきたら、PERにPBRを組み合わせて、より総合的な観点から各銘柄の投資魅力を探ってみるのもいいでしょう。