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いま聞きたいQ&A

「ブックビルディング方式」とIPO市場の課題について教えてください。

申告によって投資家の需要を正確に測る

企業がIPO(新規株式公開)にあたって株式を発行(公募)したり、すでに上場している企業が新たに公募増資および株式売却(売り出し)を行う際に、公開価格や売り出し価格を決める方法のひとつが「ブックビルディング方式」です。

この方式ではまず、引受証券会社が銀行や生命保険会社など機関投資家の意見をもとに、公開価格や売り出し価格の仮条件を決めます。仮条件は、例えば2000~2400円といった具合に幅を持たせた価格帯として設定されます。機関投資家の意見を参考にするのは、相対的に株価算定能力が高いと考えられるからです。

次に、仮条件が一般の個人投資家などに提示され、個人投資家は仮条件の範囲内で希望する購入価格や購入株数を申告します。その需要申告(ブックビルディング)を踏まえて、実際の公開価格や売り出し価格が決められる仕組みです。投資家の需要をより正確に測ることから、「需要積み上げ方式」とも呼ばれています

かつては、例えば企業のIPOにあたっては入札方式しか認められていませんでした。これは投資家が一定期間内に希望購入価格を入札し、その結果に基づいて公開価格が決まる仕組み。入札を通じて公開価格が高騰するなど、投資家の投機的な動きにつながりやすく、株式の円滑な流通に支障をきたしかねないといった問題点が指摘されていました。

1997年9月以降は企業がIPOに際して、ブックビルディング方式か入札方式のどちらかを選ぶことが可能となり、近年ではブックビルディング方式が主流となっています

ブックビルディングは株式の公開価格や売り出し価格が正式に決まるまで行われ、期間は5日間程度が一般的です。個人投資家がIPO銘柄を上場前に買いたい場合、基本的にはブックビルディングの期間中に申し込むこととなります。その際、あらかじめ当該IPOの引受(幹事)証券会社に口座を開設しておく必要があります。

ただし、申し込んでも必ず買えるとは限りません。人気銘柄は抽選となり、最近では倍率が100倍を超えることも少なくないほか、証券会社によっては得意顧客にIPO銘柄を優先的に割り振るケースもあります。

初値が公開価格を上回りやすい事情

ブックビルディング方式の普及により、個人投資家は将来性豊かなIPO銘柄を比較的安い公開価格で入手できるようになりました。しかし一方では、それがまた新たな課題を日本のIPO市場に突きつける結果ともなっています。

日米でIPO銘柄の購入層を比較すると、米国では7~8割が機関投資家であるのに対して、日本では逆に7~8割が個人投資家で占められています。そのため、IPOの引受証券会社は個人投資家が買いやすいように公開価格を低く算出しがちという指摘があります。

個人投資家の立場からすると、既存の上場銘柄に比べて情報開示の履歴が少ないことや株価変動リスクが読みにくいことなど、IPO銘柄をできるだけ安い公開価格で購入したい理由がいくつか存在します。また、企業や引受証券会社の側には株式の売れ残りを避けるため、公開価格に割安感を持たせたいという思惑もあります。

こうした事情により公開価格は、将来の収益予想などから算出する理論値(適正価格)よりも割安に設定されることが多いのです。結果として、上場時に最初につく株価である「初値」は公開価格を上回りやすく、例えば今年(2021年)上半期に上場した53社のうち48社において初値が公開価格を上回っています。

IPO銘柄によっては上場時、あるいは上場直後に高値を付けた後に、株価が大きく下落するケースも散見されます。初値が公開価格を上回りやすい現状が、個人投資家を短期投資に走らせているという側面も否定できないでしょう。

企業にとっては公開価格が低く設定されることで、資金調達額の減少につながります。IPO時の資金調達額は企業の成長にかかわる重要なファクターであり、それが低く抑えられる事態はIPO市場の存在意義を考えるうえでも見過ごせない問題といえます。

日本証券業協会では、証券会社や機関投資家などで構成するワーキンググループ(WG)を設置し、公開価格の上昇を妨げているとされる仮条件設定について見直しを検討しています

現状では規則などの制約はないものの、仮条件の範囲外に公開価格が設定される例は見られません。投資家の需要が強ければ、おのずと仮条件の上限に公開価格が決まるため、それが事実上の「天井」のような扱いになっています。

WGでは、投資家の需要に合わせて仮条件の範囲を変更するなど実務面の見直しを議論し、今年中にも一定の結論を出す方針です。ブックビルディングのあり方を含めて、日本のIPO市場はいま大きな転機を迎えているのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。