1. いま聞きたいQ&A
Q

化石燃料の価格が上昇した理由と、経済・社会に及ぼす影響を教えてください

世界に連鎖する代替燃料の需要増加

原油価格の国際指標となるニューヨーク市場とロンドン市場の先物価格は、今年(2021年)10月に入っていずれも7年ぶりに1バレル80ドルを突破しました。天然ガスは欧州の指標価格が10月上旬に一時、1年前の12倍まで高騰。アジア向けのLNG(液化天然ガス)も、スポット(随時契約)の指標価格が同5倍の水準まで上昇しています。

原油や天然ガスなど化石燃料の価格が上昇したのは、新型コロナウイルスワクチンの普及が進むとともに経済活動の再開が広がり、世界的にエネルギー需要が高まっていることが主因です。世界が「脱炭素」へ向かうなか、本来なら毛嫌いされるはずだった化石燃料の需要が逆に増加するというのは何とも皮肉な話ですが、そこには脱炭素とからんだ各国の思惑も連鎖的な影響を及ぼしているもようです。

中国税関当局の統計によると、同国では今年1~8月のLNG輸入量が5180万トンと前年同期比で2割増加し、世界最大のLNG輸入国である日本(同5137万トン)を初めて上回りました。背景には、脱炭素へ向けてCO2(二酸化炭素)の排出量が多い石炭火力の稼働を抑制し、相対的に排出量が少ないLNGの利用を促進したいという習近平国家主席の意向が働いています。

欧州では天候異変により風力発電などの電力供給が減少したため、冬場の厳寒期に備えて天然ガス火力への代替需要が高まっています。ところが、ロシアが国内向けを優先して欧州向けの天然ガス供給を削減したうえ、中国による輸入急増も加わって需給がひっ迫。そこから連鎖的に影響が拡大して、天然ガスやLNGの世界的な価格高騰につながりました。

原油価格が上昇した最大の要因は、OPEC(石油輸出国機構)にロシアなどを加えた「OPECプラス」が今年10月4日の会合で、原油の大幅な増産には踏み切らないとの決定を下したことにあります。日本政府は主要産油国に増産を要請する方針ですが、産油国の側には本格的な脱炭素社会が到来する前に化石燃料で稼ぎたい思惑もあるとみられ、交渉は一筋縄ではいきそうにありません。

LNG価格の高騰や中国による石炭の供給不足などを受けて、石油火力への代替需要が世界的に広まっているという事情もあります。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の推計によると、今年の原油の世界供給は日量84万バレル不足する見込みです。

日本にとっては「悪い円安」が進む?

化石燃料の価格高騰に加えて、今回は円安も同時進行しているのが特徴です。11月2日の時点で円・ドル為替レートは1ドル=113円台と、約3年ぶりの円安局面が続いています。資源小国である日本では、化石燃料の確保を海外からの輸入に頼らざるを得ないため、資源高と円安が同時に進むとダブルで国内の物価上昇につながることになります。

例えば電気料金やガソリン価格などは、輸入価格の上昇分を販売価格に転嫁しやすい仕組みがあるため、すでに上昇して家計の負担となってきました。

大手電力10社の11月の電気料金は、今年1月と比べて一般的な家庭で493円~1068円高くなる計算です。経済産業省によると、10月25日時点でレギュラーガソリンの全国平均小売価格は1リットル当たり167.3円、灯油は同18リットル当たり1910円となっています。いずれも8週連続の値上がりで、価格は7年ぶりの高値水準にあります。

企業間取引の物価を示す企業物価指数は、9月に前年同月比でプラス6.3%と、13年ぶりの高い伸び率を記録しました。なかでも輸入物価の上昇が際立っており、9月の輸入物価指数(円ベース)は前年同月比31.3%の上昇と、比較可能な1981年以降で初めて30%を上回っています。

企業が輸入で原材料を仕入れるコストが増えているわけですが、国際的にブランドを確立している一部の大企業を除いて、多くの輸出企業では国際競争力を維持するために、仕入れコストの上昇分を製品の輸出価格に転嫁できないのが実情です。

コスト負担が膨らんでいるのは内需産業も同様です。人々の暮らしにかかわる食材などの輸入価格が上がっても、デフレ経済に慣れ切った日本の国民感情を考えると、商品やサービスへの価格転嫁は容易ではありません。実際に9月の消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数で前年同月比0.1%の上昇にとどまっています。

すなわち、日本では輸出産業と内需産業の双方において、基本的には企業がコスト増を抱え込まざるを得ない状況にあるわけです。最近ではこうした現状を「悪い円安」と表現して悲観するような論調が目立ちますが、ここは冷静に考えた方がいいかもしれません。

かねてアベノミクスには、円安によって業績が上向いた大企業が利益を抱え込んでいるとの批判がありました。円安の恩恵にあずかった大企業も、それを演出したとされる日銀と政府も、いまこそ自らの責任で効果的な対策を探るべきではないでしょうか。円安には本来、良しあしなどないはずで、それぞれの局面ごとに国家としての対応が問われるだけだと思われるからです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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