「損失限定型投信」の商品性について、改めて注意点を教えてください。
繰り上げ償還も珍しいことではない
今年(2021年)9月2日に、損失限定型投信の「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド」(愛称:あんしんスイッチ)が繰り上げ償還されました。17年7月に設定され、ピーク時には純資産残高が2300億円を超えた人気投信ですが、4年あまりで運用にはピリオドが打たれたことになります。
投信の繰り上げ償還というとまれな出来事のように思えますが、損失限定型投信ではそれほど珍しいことではありません。20年3~4月には追加購入ができない単位型の「りそな・リスクコントロールファンド」(愛称:みつぼしフライト)でも、シリーズの2本が繰り上げ償還となっています。
繰り上げ償還そのものは、最初から決められていたルールにのっとって運用会社が実行した措置なので、周りがとやかくいう筋合いのものではないでしょう。問題は、投資家がルールの中身や繰り上げ償還の可能性について、きちんと理解していたかどうかです。
損失限定型投信は、基準価額の下落を一定水準までにとどめることで、文字通り投資家の損失を常に限定するタイプのバランス型投信です。あらかじめ基準価額の下値ラインとして9500円や9000円などの水準が設定されており、たとえ実際の基準価額がその水準を下回っても、投資家は下値ラインで解約・換金できるようになっています。
運用面では市場環境に合わせて資産配分を変更し、特に株式相場が大きく下落するような局面では債券や短期金融商品、現金などの配分比率を高めることで、基準価額の下落を一定程度に抑えます。
損失限定型投信では一般に、基準価額が下値ラインまで下がるか、あるいは基準価額と下値ラインの差が継続して一定水準より縮まった場合などに、繰り上げ償還される取り決めになっています。その際、基準価額が下値ラインを下回った差額分については銀行などの販売会社が保証するため、投資家は下値ラインでの換金が可能なわけです。
前述の「あんしんスイッチ」は下値ラインを9000円に設定していましたが、20年春のコロナショックを受けて基準価額が一時9100円台まで下落。それ以降は株式などリスク資産の配分比率を低めに維持し、保守的な運用を続けてきたものの、今年8月4日に基準価額がついに9000円まで下落して繰り上げ償還となりました。
損失リスクの低減は運用資産全体で考える
損失限定型投信は、預貯金に代わる安全性が相対的に高い運用商品として、特に銀行などが販売に力を入れている「預金代替投信」のひとつです。お金は少しでも増やしたいけれど、運用で損失を被るのは極力避けたいという保守的な投資家から人気を集めています。
しかし、その保守性という投資家ニーズに応えようとするがゆえに、相場急落などのショックには弱い商品構造となっています。株式相場の急落時などに基準価額が下がると、それが下値ラインまで達しないようにするため、現金などの配分比率を高めざるを得なくなります。結果として、その後に相場が反転しても上昇相場に乗り切れないうえ、再度の相場下落にも備える必要があるため、リスク資産の配分比率を十分に高めることが難しいのです。
そもそも昨今のような超低金利下で預貯金代わりの投信をつくるためには、かなりの無理や矛盾を強いられるのは当然ではないでしょうか。だとすれば、本当に問われるべきはむしろ投資家の運用に対するニーズや、投信の購入姿勢ではないかと思われます。
投資家にまず考えてもらいたいのは、損失を避ける方法についてです。損失限定型投信において、株式などリスク資産への配分比率はおおむね10~20%程度ですが、実はこれと同じ運用状況を私たちが自らつくることも可能です。例えば運用資産の10~20%で国内外のインデックス型株式投信を購入し、残りを個人向け国債や預貯金に振り向けるという方法です。
損失限定型投信では一般に0.8~1.2%程度の信託報酬が毎年のコストとしてかかり、年0.2%程度の銀行保証料も徴収されます。一方でインデックス型株式投信には、信託報酬が年0.2%以下の商品が数多く存在するし、個人向け国債は中途換金する場合を除いて運用開始後にコストはかかりません。
また、そもそも本気で損失を避けたいのならば、運用資産に占めるリスク商品の比率を、個々人が自分の納得できるレベルまで低くするのが最良の方法です。極端な話、運用資産のなかにどれだけハイリスクの投資対象が含まれていても、それが全体の0.5%や1%なら怖くないでしょう。大切なのは、定期預金などの無リスク資産を含めた「自らが運用する資産全体」で損失リスクの低減を考えることであり、そうした作業を1本の投資信託でまかなおうとするから無理が生じるわけです。
繰り上げ償還については、損失の傷を深めることなく、効果的な損切りが可能になるというポジティブな考え方もあるのかもしれません。しかし、運用を継続するためには次の投信を購入する必要が出てきます。そこでもまた、繰り上げ償還の可能性を覚悟して、損失限定型投信を選ぶのでしょうか。無理のない範囲でリスク資産への投資を続けながら、相場の回復を待つ方がよほど効率的だと思います。