1. いま聞きたいQ&A
Q

円高に振れにくくなった為替の現状を、どのように見ればいいですか?

円安による輸入コスト上昇の弊害が目立つ

円・ドル為替レートが1ドル=100円を突破するような円高にならなくなってから、すでに5年以上が経過しています。円・ドル相場が直近で最も1ドル=100円に近づいたのは、2020年3月9日に付けた1ドル=101円18銭です。当時は新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、為替市場も株式市場も大きく混乱するなかでの円高進行でしたが、それでも100円の大台は超えませんでした。

100円の大台を上回った最後の局面は、16年8月23日の1ドル=99円92銭までさかのぼります。同年の6月には英国で国民投票が実施され、EU(欧州連合)離脱を選択することが決定。やはり市場が混乱して、いわゆる「リスク回避の円買い」が進んだ結果でした。

内閣府の調査によると、日本の輸出企業(上場企業)の間ではこのところ、採算レートが平均1ドル=100円程度で推移しています。100円を超える円高にならないということは、少なくとも輸出面においては景気の足を引っ張る要因が薄らいでいるわけで、日本経済にとっては朗報のように思えます。ところが、さまざまなデータをみる限り、現実はそう単純な話では済まないようです

日本企業は特に21世紀に入って以降、高成長の市場を求めて対外直接投資を増やすとともに、生産拠点を海外へ移す動きを進めてきました。経済産業省の海外事業活動基本調査によれば、日本の製造業の海外生産比率(国内全法人ベース)は07年度の19.1%から、17年度には過去最高の25.4%まで拡大し、その後も高止まりが続いています。

結果として国内からの輸出は減少し、企業業績に対する為替変動の影響は以前より緩和されました。一方で化石燃料の輸入が年17兆円規模に膨らみ、近年では年間の貿易収支が赤字を記録するのも、もはや珍しいことではなくなっています。円安については輸出促進の効果よりも、輸入コスト上昇の弊害が目立つようになったと考えられるわけです

日本経済研究センターが総務省の「産業連関表」などを基に分析したところ、円安は日本経済にとってすでにデメリットの方が大きいという試算結果が出ています。外貨建てで輸出する商品の円換算額が増えて売上高が膨らむプラス効果と、輸入品が値上がりしてコストが増えるマイナス効果を比較すると、対ドルで10%の円安が進んだケースでは、マイナス効果の方が国内生産額比で0.5%上回っています。

円の総合的な実力は48年前の水準に逆戻り

貿易量や物価水準を基に算出され、通貨としての総合的な実力を示す円の「実質実効為替レート」は、1971年のニクソン・ショックから、ピークだった95年までの間に2.6倍まで上昇しました。その後は5割低下し、現状では48年前(73年)の水準にまで逆戻りしています。

かつて日本が重点政策として力を注いだ「円高是正」は、輸出企業を側面から支援する効果が得られた半面、新興国との価格競争にさらされる脆弱な国内産業を延命させることにもつながりました。それが結果として、より付加価値の高い産業へのシフトを大幅に遅らせ、国内で賃金が上がらずに消費が低迷するという悪循環を招いたことは否めません。

OECD(経済協力開発機構)によると、主要国の平均年収が00年以降で1~4割上昇したのに対して、日本だけは横ばいの状態が続いています。専門家の間からは「賃金水準でみると日本は新興国に近づいている」といった悲観的な声も上がっています。大きく円高に振れにくくなった為替の現状は、世界における円の弱体化、ひいては日本経済の弱体化という意味合いが強いのかもしれません。

それでは今後、円高に振れることはあるのでしょうか。当面の注目は、米国の金利動向ですFRB(米連邦準備理事会)は今年(2021年)中にも量的金融緩和の縮小に踏み切る見通しですが、その後は遅かれ早かれ、利上げを模索し始めることになります。基本的に米国の利上げはドル高要因であることから、一般論としてみれば、今後は円安・ドル高の圧力がさらに強まっていくように思えます。

ところが過去を振り返ると、米国の利上げによってむしろドル安が進んだケースもあります。例えば04年6月~06年6月のグリーンスパンFRB議長時代の利上げ局面では、円やユーロ、ポンドなど複数の主要通貨に対するドルの価値を表す「ドル指数」が5%ほど下落しました。円・ドル相場でみても、利上げ開始直後の04年末にかけて一時的に円高・ドル安が進んでいます。

当時、ドル安が進む一因となったのが米国における経常収支の大幅な悪化ですが、実は現在の米国も似たような状況にあります。米商務省が今年9月に発表した4~6月期の米経常収支は、1902億ドル(約20兆8000億円)の赤字でした。赤字額は07年4~6月期以来14年ぶりの大きさとなっています。貿易取引などを含む経常収支の悪化はドルより外貨の需要を高めるため、強力なドル安圧力となります。

コロナ対応による財政赤字の膨張や、バイデン大統領の支持率低下など、米国の政治・経済には不確定要素もくすぶり続けます。この先、一時的にでも円高に振れる局面が訪れるとしたら、それは米国発のネガティブなニュースがきっかけになりそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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