いま聞きたいQ&A

“名ばかりESG”の問題とは、どのようなものですか?

投資を受ける側と行う側の双方に疑念

問題の焦点は大きく分けて2つあります。

一つは、ESG(環境・社会・企業統治)銘柄として注目を集める企業が、ESGへの取り組みを巡って不正を働いたり、ESG情報の開示を怠っているのではないかという疑いです

海外では米国の投資会社が今年(2021年)3月に、電気自動車(EV)メーカーのローズタウン・モーターズ(米国)に対して、予約受注台数の水増し疑惑を告発。7月には別の投資会社が、植物性ミルクメーカーのオートリー(スウェーデン)に対する告発リポートを公表しました。これは同社が投資家向け説明資料において、環境情報を自社に都合よく取捨選択しているという指摘です。

日本では8月に、木質バイオマス発電の東証1部企業エフオンについて、再生可能エネルギーの売電価格にからむ不正操作があったとの一部報道が伝わりました。これを受けて同社の株価は、8月13日終値から17日終値までの2営業日で37%も下落しています。

もう一つの焦点は、資産運用会社がファンド(投資信託)でESG関連をうたいながら、実態を伴っていないのではないかという疑いです

8月にはドイツ銀行グループの資産運用会社DWSに対して、米国とドイツの金融当局が調査に入ったと報じられ、市場に驚きが広がりました。DWSが投資先をESG銘柄とみなす際の評価方法や運用資産額について、元社員から「誇張されている」という情報が寄せられたのがきっかけです。

日本では今年9月7日時点で純資産が1兆円を超える大ヒット投信について、20年12月に金融庁がESG投信としての銘柄選定理由を問いただすという事案がありました。商品名から「ESG」を外したほぼ同名の投信と、組入比率上位10銘柄のうち8銘柄までが重なっていたからです。

世界持続的投資連合(GSIA)によれば、20年のESG投資額は35.3兆ドル(約3900兆円)と、世界の投資マネー全体の約4割に達しています。ESGへの注目が高まるなか、投資を受ける側の企業に対してはESGに配慮しているふりをする「ウォッシュ」の疑念が、投資を行う側の資産運用会社に対しては「ESG投資の質」に関する疑念が、それぞれ強まっているわけです。

すでに各国は規制の強化に動き始めています。ルールづくりで先行するEU(欧州連合)では、今年3月に「サステナブルファイナンス開示規則」を導入し、資産運用会社などにESG投資の考慮方法などに関する情報開示を義務付けています。米国ではSEC(米証券取引委員会)が、ESGファンドの情報開示強化および名称規則の更新に向けて検討中。日本でも金融庁が運用会社などへのモニタリングを通じて、ESG投信の情報開示の拡充を要請する方針です。

個人投資家はESG投資をどのように位置づけるか

企業の環境への配慮やガバナンスへの意識向上などが注目を浴びるケースは、過去にもありました。日本では1990年代末に「エコファンド」がブームになり、2010年代の半ば以降は企業統治をテーマに掲げた投信が残高を伸ばしたものです。しかし、これらのいわゆるテーマ型ファンドは残高の拡大が長続きせず、やがて資金は流出していきました。

それに比べると今回のESGブームともいえる様相は、SDGs(持続可能な開発目標)も含めた理念の世界的な広がりという点でも、企業や機関投資家の本気度という点でも、過去とは違って本格的な潮流となる可能性が高いように思われます。

例えば「脱炭素」というテーマだけをとっても、国家を挙げて投資を加速させようという動きが顕著です。米国のバイデン政権はインフラ整備や気候変動対策に2兆ドル(約220兆円)を、EUは今後10年で官民合計1兆ユーロ(約130兆円)をそれぞれ投資目標として掲げています。逆説的に言うと、ESGがブームではなく「常態」になりそうだからこそ、そうした潮流に遅れまいとする一部の企業や機関投資家の間で、“名ばかりESG”の問題が噴出してきているのではないでしょうか。

今後に向けてひとつ気になるのは、個人を含む投資家が資産運用のなかでESG投資をどのように位置づけるかという点です。なかでも注目は個人投資家の動向でしょう。ESGを意識した投資は、年金基金などの機関投資家にはSRI(社会的責任投資)の意味合いも大きいですが、個人投資家が何よりも重視するのは「将来的に利益を得られるか」という現実論だからです

投資家にとって本来、ESG投資が意味を持つのは、企業のESG対応が将来的に株主価値の向上につながる場合です。言い換えるならば、社会的価値への投資が結果として本当に経済的価値をもたらすのか、という命題でもあるわけです。その答がはっきりしない場合、ESGにまつわる評価基準の厳格化は、かえって個人投資家のESG銘柄離れを招く恐れもあります。

一方で、社会的価値の向上さえ実感できれば、将来的なリターンがマイナスになっても構わないという、既存の枠組みから外れたタイプの個人投資家も最近は増えてきているようです。その動向についても、今後は注視しておく必要がありそうです。

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