商品相場は長期的な上昇局面に入ったのでしょうか?
世界経済の急回復を連想させる銅価格の最高値更新
商品相場には「スーパーサイクル」と呼ばれる周期が見られます。これは原油や金属資源、穀物などの国際商品価格がほぼいっせいに値上がりし、その後に下落するという長期トレンドを周期的に繰り返すというもの。資源国であるカナダの中央銀行や同国統計局の分析によると、1900年代初め以降、4回のサイクルが確認されています。
スーパーサイクルが生じる要因には諸説ありますが、最も一般的なのは国際商品をめぐる需要と供給の時間差に着目した考え方です。すなわち何らかの理由で資源などの需要が世界的に急増した際に、生産能力の拡大にある程度の時間がかかり、供給が間に合わなくなる。そうして一定時間、需要超過が続くことで商品相場の上昇をもたらし、供給が拡大すると値下がりに転じるというわけです。
分析方法によって数年のずれはありますが、前回の上昇局面は95年前後~2009年前後とされています。そこではいわゆるBRICsなど新興国の台頭による需要急増や、金融化を通じた国際商品への投資拡大が大きく影響したもようです。その後、10年以降の商品相場は下落基調が続いていましたが、ここにきて潮目の変化を指摘する声が増えてきました。
19品目から構成され、国際商品の総合的な価格動向を表す「ロイター・コアコモディティーCRB指数」は今年(21年)4月29日に、18年10月3日以来の高値となる200.67を記録。その後も騰勢は衰えず、5月11日には207.55まで値を伸ばしています。直近の安値を付けた20年4月から1年余りで9割超の上昇と、急激な反転ぶりが目立ちます。
個別の銘柄で特に注目したいのは、CRB指数を構成する品目のひとつである銅の値上がりです。銅の国際指標となるロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月先物は、日本時間の今年5月7日時点で一時1トン=1万390ドル前後まで上昇し、11年2月に付けた最高値の1万190ドルを上回りました。
銅は幅広い分野の製造業に使われ、その需要や価格は世界景気の動向を色濃く反映するといわれます。そうした観点から素直にみるならば、新型コロナのワクチン普及や、バイデン米政権の掲げる大規模なインフラ投資など各国の積極的な財政政策を受けて、世界経済が急回復に向かっていることが銅需要の増加につながったと考えられます。
緩和マネーが「脱炭素」というテーマに反応した側面も
一方で、銅価格の上昇には違った解釈もあります。いま世界は「脱炭素」の推進など、気候変動対策を強化する流れに向かっています。クリーンエネルギーの発電には従来型発電より多くの銅が使われ、同じ電力を発電するのに風力発電では従来型の5倍の銅が必要という分析もあります。また、英国の調査会社アペリオ・インテリジェンスによると、電気自動車(EV)では電池をはじめモーターや導線などにガソリン車の約4倍の銅が必要になるそうです。
主要な国際商品銘柄について、前出のCRB指数が前回高値を付けた18年10月の月間平均価格と、今年4月の月間平均価格を比べてみると、銅が+50%、銀が+76%、プラチナが+46%、ニッケルが+34%など金属資源の上昇ぶりが目立ちます。この間、原油の国際指標であるWTI原油先物は-13%、北海ブレント原油先物は-20%と、それぞれ下落しています。CRB指数が従来、原油価格とおおむね連動してきたことを考えると、今回の商品相場上昇は過去のケースとは性質が異なることが分かります。
銀とプラチナは太陽光発電の電極部材に、ニッケルは蓄電池など2次電池の材料に使われるという具合に、いずれも銅と同じく脱炭素の推進に一役買うのが特徴です。折しも現在、コロナ禍に対応した主要国の大規模な金融緩和によって、市場には行き場を求める投資・投機マネーがあふれています。それらが脱炭素というテーマに反応して一部の国際商品に流れ込み、相場を押し上げている側面も大きいのではないでしょうか。
改めて振り返ると、CRB指数が上昇に転じたのは20年4月のことでした。その前月の3月に、FRB(米連邦準備理事会)が事実上のゼロ金利政策の再開と量的緩和の拡大に踏み切ったというのは、何とも意味深な気がします。
もうひとつ、農林産物についても見ておきましょう。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の木材先物価格は今年5月11日現在、1000ボードフィート(2.4立方メートル)当たり1544ドルと、18年10月比で5倍超まで上昇しています。コロナ禍における在宅勤務の普及と超低金利によって、米国では住宅ブームが発生。旺盛な住宅建設需要を受けて、建設業者が木材の確保に躍起となっていることが背景にあります。
コロナ禍では国際商品に供給制約も働くため、スーパーサイクル発生の基本的な条件は整っているともいえます。しかしながら、コロナが収束した後には緩和マネーの動向や人々の暮らしぶりによって需要が大きく左右されそうなほか、脱炭素の流れがどこまで本格化するのかも不透明です。新型コロナという特殊要因が作用して始まった今回の商品相場上昇は、コロナ禍の今後の行方と照らし合わせながら、慎重に見極めていくのが妥当かと思われます。