1. いま聞きたいQ&A
Q

円ドル為替相場の動きを読み解くヒントを教えてください。

昨年のドル安から一転、今年はドル高が進む不思議

昨年(2020年)の円ドル為替相場の動きを振り返ると、円の安値は2月20日に付けた1ドル=112円23銭で、高値は3月9日に付けた1ドル=101円18銭でした。ほんの半月あまりの間に11円05銭という年間値幅(高値と安値の差)を一気に記録したことになります。

当時は新型コロナウイルスの感染者数が世界的に増加するなか、景気後退の懸念からいわゆる「リスク回避の円買い」が急拡大しました。一方で、ドルの調達不安によって金融機関を中心にドル買いも広がり、為替市場は一種の混乱状態にあったと考えられます。

同年3月下旬には再び1ドル=111円台まで円安が進みましたが、その後は緩やかながらほぼ一本調子の円高局面となりました。背景としては、米国による経済対策の影響が強いといわれています。すなわち、FRB(米連邦準備理事会)が3月に実施した事実上のゼロ金利政策の再開と量的緩和の拡大、そして米国政権・議会によるコロナ対策としての大規模な財政出動です。

円高ドル安の傾向は今年(21年)に入ってもしばらく続き、1月下旬までは1ドル=102円~103円台で推移していました。ところがそこから、今度は一転して円安ドル高が進むことになります。直近の2カ月ほどにわたって一本調子で円安が進行し、3月9日には一時1ドル=109円台を記録。同24日時点では108円台後半を付けています。

円安に転換した最大の要因は、米長期金利の上昇です。長期金利の指標となる米10年物国債利回りは3月18日に一時1.75%と、1年2カ月ぶりの水準にまで上昇しました。市場では日米金利差の拡大に着目した円売り・ドル買いが活発化しており、今後は低金利の円を調達・売却して高金利通貨で運用する「キャリー取引」が、本格的に復活するのではないかとの臆測も強まっています。

昨年の円高ドル安は、一般論としてみるならば、円に対するドルの弱体化を意味します。FRBによる金融緩和の強化も、米国政権・議会による財政出動も、市場へドルを大量に供給することが目的です。市場に出回る通貨の総量が増えるとインフレ(物価上昇)圧力が生まれますが、複数の通貨間では購買力平価の観点から、物価上昇率の高い国の通貨ほど弱いとみなされ、通貨安につながりやすくなります。大規模な財政出動が財政赤字の拡大懸念を招くことも通貨安要因のひとつです。

ところが今年に入って米国で長期金利が上昇し、実際にインフレ圧力が高まると、昨年とは反対に円安ドル高が進む結果となっています。3月17日にFRBが開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)では、21年10~12月期に米国のインフレ率が前年同期比で2.4%まで上昇するとの予測が示されました。実現すれば12年1~3月期以来、約10年ぶりの高インフレ率です。

ドルにとっては「通貨供給量の増加→期待インフレ率の上昇→通貨の相対的な価値低下」という同じ環境下にありながら、時期によって円高ドル安になったり円安ドル高になったりする――。こうした不思議さがまさに、「為替相場を理解するのは難しい」といわれる所以(ゆえん)ではないでしょうか。

投資家のリスクオンが為替相場を左右する?

ある専門家は昨年の円高ドル安について、投資家のリスクテイク姿勢との関係を指摘しています。

昨年はコロナ禍にあっても世界各国の株価や一部の商品価格などが上昇したことから分かるように、豊富な緩和マネーを背景として投資家のリスクオンが続きました。最高値の更新が相次いだ米国の株式市場には、米国内外から資金がこぞって流入しましたが、それと並行して、低金利で供給されたドル資金が新たな運用機会をめざして米国外のリスク資産へ大量に流出。その結果としてドル安が進んだ側面も大きい、というわけです

投資家のリスクオンは、円安ドル高に転換した現在も何ら変わってはいません。それもそのはず、米国で長期金利が上昇し、新型コロナワクチンの普及にもめどが立って、本格的な景気回復への期待が高まってきたのですから。ひとつ懸念があるとすれば、米国株の動向です。3月18日に一時記録した米10年物国債利回りの1.75%は、S&P500種株価指数の予想配当平均利回りと等しく、ここから上は相対的に債券の魅力が高まる領域に入ります。

米長期金利がさらに上昇した場合、米国株が大なり小なり調整を迎える可能性は高まります。一方でFRBは、「少なくとも23年末までゼロ金利を維持する」という従来の方針を崩していません。その言葉どおりなら、緩和マネーとしてのドル供給はこの先も膨張を続けることになります。米国株の調整が過度に大きくなく、FRBの緩和政策にも大きな変更がなく、景気回復への足どりが確かならば、投資家のリスクオンは継続するでしょう。

そこでは米国株の調整具合をにらみながら、昨年と同様に米国外へのドル流出が増えると考えられます。円とドルの関係でいうならば、低金利の円を調達・売却して高金利通貨での運用を増やす動きと、ドルを売って米国外のリスク資産を買う動きとの綱引きが、今後の為替相場に少なからず影響を及ぼすことになりそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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