1. いま聞きたいQ&A
Q

トルコリラの相場動向について、現状と今後の見通しを教えてください。

政府介入による大幅利下げと実質的なリラ買い

トルコ中央銀行は今年(2020年)3月17日の金融政策決定会合で、主要な政策金利である1週間物レポ金利を1%引き下げて9.75%としました。利下げの実施は19年7月から7会合連続で、過去8カ月ほどの間に政策金利は24.00%から累計で14.25%も引き下げられたことになります。

トルコ経済は18年に発生した通貨危機「トルコショック」の影響でしばらく低迷が続いていましたが、19年7~9月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比1.0%増(改定値)と1年ぶりにプラス成長を記録。10~12月期のGDPも前年同期比6%増の大幅成長となるなど、ここにきてようやく回復の兆しが見られるようになっています。

国内消費が持ち直してきたことなどから、大幅利下げが奏功していると見ることもできますが、ことはそう単純ではありません。低金利による景気浮揚を志向するトルコのエルドアン大統領は、これまで中央銀行に繰り返し利下げの実施を迫ってきました。19年7月には要求に抵抗した当時の総裁を更迭しており、中央銀行による連続利下げはなかばエルドアン大統領の圧力に屈したものと考えられます。

トルコでは一時、インフレ率が年率25%を超えていたものの、経済の回復傾向を受けて最近では12%程度まで低下しています。ただし、政策金利からインフレ率を差し引いた「実質政策金利」はすでにマイナスとなっており、そんななかでの追加利下げは海外資金の流出を通じて通貨安につながりやすいという危険をはらんでいます

トルコの通貨であるトルコリラは、18年8月に1ドル=7.2リラ台の史上最安値を記録しましたが、19年は一時的に1ドル=5.2リラ台まで上昇するなど、11月まではおおむね安定した相場が続いていました。実はこの間、中央銀行が3つの国営銀行を通じてリラを実質的に買い支えていたことが明らかになっています。この件についても、為替安定をめざすエルドアン大統領の意向が強く働いていたとみるのが妥当でしょう。

地政学リスクと経済下支え余力が今後のカギ

このように政府介入が目立つトルコの経済運営に対して、市場は信認を与えてはいませんでした。その不信感が19年12月からは、いよいよ形になって表れ始めます。きっかけは、トルコが市場に地政学リスクを意識させるような行動を起こしたことです。

まず12月中旬に米議会が、オスマン帝国時代のトルコで発生したとされる事件を「虐殺」と認定する決議案を可決し、議会内でトルコ制裁を求める声が高まりました。背景には、18年から続く米国とトルコの政治・外交的な軋轢(あつれき)のほか、トルコが10月に欧州諸国の反対を押し切ってシリア北部に軍事侵攻したことや、ロシアからミサイル防衛システム「S400」の導入を進めていることなどがあるものと考えられます。

米議会に対抗してエルドアン大統領は12月15日、トルコ南部にある米空軍基地を閉鎖する可能性に言及しました。それを機に米国とのさらなる関係悪化が意識され、トルコリラの下落基調が再び強まります。12月上旬に1ドル=5.7リラ台で推移していたトルコリラ相場は、今年3月19日時点で1ドル=6.5リラ前後まで下落が進んでいます

トルコの「お騒がせぶり」は今年に入ってさらにエスカレートしています。2月には3日と27日に、シリア北西部のイドリブ県で同国のアサド政権軍とトルコ軍が相次いで戦闘を交えました。また、2月末にはトルコ政府高官が、シリアからの難民に陸路や海路で欧州に移動することを認める方針を決めたと発言し、中東から欧州に向けて再び難民が押し寄せる事態となっています。

トルコは16年にEU(欧州連合)と締結した協定に従って、これまでにシリア難民だけでも約360万人を受け入れ、国内にとどめてきました。国境を接するイドリブ県に軍隊を派遣してシリアの反体制派を支援しているのも、これ以上の難民流入を防ぐことが目的のひとつです。

一方、トルコの有権者の間では難民を過剰に受け入れるエルドアン政権への不満が高まっています。エルドアン大統領とすれば、EUとの協定に従って難民の渡欧を抑えているのに見返りが少ないため、シリア情勢と難民問題から何かと距離を置きたがるEUに難民増加の懸念をちらつかせて、もっと関与を促す狙いがある模様です。

今後のトルコリラ相場も、折に触れてエルドアン政権がもたらす地政学リスクに左右されることになりそうです。そしてもうひとつ、当面は新型コロナウイルスの影響も避けられないでしょう。

世界的な経済活動の停滞は年間5000万人が訪れるトルコの観光産業に打撃を与え、投資マネーのリスク回避と流動性確保によるドル回帰が進むほど、そのままトルコリラ売りにつながります。短期間でいわば無理やり実施した大幅利下げとリラ買いのセット政策によって、トルコ中央銀行の外貨準備残高は理論上の適正規模の8割程度まで減少しており、国際通貨基金(IMF)が安全とみなす100~150%にはほど遠い水準です。

人口動態などからみて、トルコ経済の潜在的な成長性は相変わらず高いと考えられます。しかし、過去の強権的な政策のツケがたたって、政府と中央銀行が肝心な局面で自国経済を下支えする力を十分に示せなかった場合、市場がトルコリラをさらに売り浴びせる可能性も否定できないでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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