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いま聞きたいQ&A

日米欧の金融政策について、最新動向と今後の見通しを教えてください。

日銀は実質的に「隠れ緩和縮小」へ向かっている?

まず日銀の金融政策について、今日までの経緯を大まかに振り返っておきましょう。

2013年4月以降、日本銀行はデフレからの脱却をめざして、市場での国債購入を柱とする「量的・質的金融緩和」を進めてきました。16年1月には、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部で金利をマイナス0.1%とする「マイナス金利政策」を導入。同年9月からは「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」という概念のもと、長期金利と短期金利をともに特定の水準に誘導する取り組みにも着手しています。

イールドカーブとは国債の5年物や10年物、20年物など各年限の利回りを線でつないだもので、通常は年限の長い国債ほど利回りが高くなるため、全体として右肩上がりの角度がついた曲線となります。しかしながら、日銀の大規模な金融緩和によって年限の長い国債の利回りも低下傾向が強まり、曲線が平坦化して民間銀行や生損保、年金基金などの資金運用に影響が及ぶようになってきました。

特に期間の短い金利(預金金利)で資金を調達し、長めの金利で貸し出しや国債運用を行う銀行にとって、長期金利の過度な低下は利ざやの縮小、すなわち収益の圧迫要因となります。こうした状況を改善するため、長期と短期の金利を人為的に操作することで、利回り曲線を少しでも通常の形に近づけようというのがイールドカーブ・コントロールの狙いです。

具体的には、短期金利は従来どおり日銀当座預金の一部金利をマイナス0.1%に維持しながら、長期金利(10年物国債利回り)についても「ゼロ%程度」という誘導目標を定め「プラスマイナス0.2%程度」を念頭に、その範囲内に収まるよう国債の買い入れを調節します。最近では国債買い入れオペ(公開市場操作)において、20年物と30年物の新発債を買い入れ対象から外すなど、より年限の長い超長期国債の利回り安定に向けても新たな試みに動いています。

本格的な日本経済の再生へ向けて「できることは何でもやっている」という自負が日銀にはあるようですが、専門家のなかにはイールドカーブ・コントロールの採用により、かえって金融緩和の限界が露呈したと指摘する人もいます。

日銀は国債買い入れにおいて、残高積み増しのメドを「年間80兆円」としていますが、過去に市場で既発債の大半を買い占めてきた結果、すでに「玉不足」の状態に陥っているのが実情です。日銀がイールドカーブ・コントロールに乗り出して以降、マネタリーベース(資金供給量)の増加ペースは大幅に鈍化しており、量という観点で測るならば、実質的に「隠れ緩和縮小」へ向かっていると見ることもできるわけです。

効果が小さくても金融緩和を続けざるを得ない事情

FRB(米連邦準備理事会)は15年末から9回にわたって利上げを行った後、19年7月からは3会合連続で利下げに踏み切りました。これは米中貿易戦争による景気失速を未然に防ぐ「予防利下げ」の意味合いが強いといわれています。ECB(欧州中央銀行)も一時は利上げの検討に入ったものの、世界経済の先行き不安が強まったため、19年3月に年内の利上げを断念。欧州景気への配慮から、9月には一転してマイナス金利の深掘りや量的緩和再開などの緩和拡大策を打ち出しました。

こうして日米欧は再び金融緩和で足並みをそろえることになったわけですが、いずれについても副作用が目立つばかりで効果が小さいとか、達成目標が非現実的すぎるといった批判的な意見が多く聞かれます。米国では企業債務残高が過去最高の15兆7600億ドルにのぼり、史上最高値を更新し続ける株価のバブルとともに信用バブルが懸念されています。

日本と同様にマイナス金利を採用しているユーロ圏では、収益悪化に耐えきれなくなった銀行が個人預金にマイナス金利を転嫁しようとする動きを見せ、ECBの金融政策に対して政治的な逆風も強まってきました。

ECBでは19年11月に就任したラガルド新総裁のもと、20年初から約1年かけて政策総点検を実施し、金融政策の枠組みを見直す方針です。その際、マイナス金利の副作用が効果を上回る「リバーサル・レート」の検証が焦点の一つになる模様です。金利低下があまりに行き過ぎると金融緩和の効果がむしろ薄まることが経済理論として立証されつつあり、日銀も今後はこの理論を無視できなくなりそうです。

日米欧の中央銀行は金融政策の判断材料として2%の物価目標を掲げていますが、各国・地域とも直近の物価指標の前年同月比上昇率は2%を下回っており、目標達成への見通しは立っていません。それでも各中央銀行が2%目標の御旗を降ろそうとしない背景には、目標を下げると市場で緩和縮小や政策の手詰まりと受け止められ、自国の通貨高を招いて景気に悪影響を及ぼしかねないなど、引きたくてもおいそれとは引けない事情があるようです。

物価とともに景気を映すといわれる雇用環境をみると、米国の失業率は19年9月に3.5%と50年ぶりの低水準を記録。一時は2桁を大きく上回っていたユーロ圏の失業率も19年10月に7.5%と、08年以来の水準まで下がっています。こうした状況のなか、あえてさらなる金融緩和に打って出た米欧について、一部の専門家からは「効果を期待しての決断ではない」という冷めた意見も聞かれます。

米中貿易戦争の停止やドイツの財政出動など、国や地域としてより適切と考えられる対応が政治的な理由などからすぐには実行できないために、さほど効果が期待できなくても金融緩和に頼らざるを得ないというわけです。一強内閣による政治のおごりが指摘される日本も含めて、主要先進国の金融政策の今後を読み解くカギは案外、そのあたりにあるのかもしれません。

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