1. いま聞きたいQ&A
Q

利回りがマイナスの債券が増えている背景と、その意味について教えてください。

金利収入ではなく売買差益を狙った債券取引

世界で「利回りがマイナスの債券」が増えています。残高は約17兆ドル(約1,800兆円)と2019年のはじめから倍増し、いまや債券全体の約4分の1を占める規模となりました。特に日本と欧州でマイナス利回りが目立っており、日本では9月19日現在、10年物国債の利回りがマイナス0.2%前後で推移しています。20年債の利回りもかろうじてプラスを維持している状態です。

欧州では10年物国債のマイナス利回りが複数の国に広がっています。9月19日現在でフランスがマイナス0.2%前後、ドイツがマイナス0.5%前後、スイスがマイナス0.7%台といった具合です。8月以降はドイツの30年債やスイスの50年債など、いわゆる超長期国債においても利回りがマイナスとなる日が出てきており、ここまでくるともはや異常事態というべきかもしれません。

債券のマイナス利回りは、中央銀行が金融政策の一つとして採用する「マイナス金利」とは仕組みや意味合いが異なります。まずは両者の違いを確認しておきたいと思います。

中央銀行によるマイナス金利政策は、民間銀行が中央銀行の当座預金にお金を預ける際の金利をマイナスにするもので、今日では日銀や欧州中央銀行(ECB)をはじめ、スイス、デンマーク、スウェーデンの各中央銀行が導入しています。民間銀行が中央銀行に預けているお金を企業などへの貸し出しに回すよう促す狙いがありますが、一方で運用難から民間銀行の収益が圧迫されるという副作用もあり、市場関係者の間では「劇薬」とも呼ばれる異例の金融緩和策です。

それに対して、債券のマイナス利回りとは、満期までに受け取る金利収入と元本の合計額を、現時点の債券価格が上回った状態を指します。大ざっぱなイメージをつかみやすくするために、極端ではありますが、2年物の国債を例にとって考えてみます。

投資家Aさんが額面1万円、表面利率1%(年利)の新発2年物国債を購入したとしましょう。

1万円で購入したAさんにとっての利回りは年率1%で、満期償還時には10,200円が戻ってくることになります。その翌日、投資家Bさんが市場取引を通じてAさんからその国債を10,300円で購入したとします。Bさんがそれを満期償還まで持ち切った場合には10,200円しか戻ってこないため、100円の損失が出ます。すなわち、Bさんにとってその国債の利回りはマイナス0.5%となります。

さらにその翌日、投資家CさんがそれをBさんから10,400円で購入したら、どうなるでしょうか。Bさんは結果として、差し引き100円の収益を得ることになります。国債を購入した段階でCさんにとっての利回りはマイナス1%ですが、同様にCさんもこの国債を将来的に10,400円を超える価格で売ることができれば、売買差益が得られます。

このように、本来はインカムゲイン(金利収入)の手堅さが最大の特長とされている債券が、まるで株式のようにキャピタルゲイン(売買差益)狙いで大量に取引されるようになると、債券のマイナス利回りが常態化することもあり得るわけです。

投資家は金融緩和の長期化を見透かしている

実際に市場では「短期筋」と呼ばれる短期投資家を中心に、キャピタルゲイン狙いの債券売買が大規模に行われている模様です。国債の利回りがマイナス圏にあるということは、すでに相当なレベルまで国債価格が上昇していることを意味します。それでも「将来誰かが買うはず」という思惑のもと、高値をさらに買い上げる投資家があふれているわけで、これはまさしくバブルの様相を呈していると考えるのが妥当です

投資家の強気な行動の背景には、世界的に景気後退の懸念が広がるなかで再び始まった先進各国の金融緩和政策があります。今年7月31日に米連邦準備理事会(FRB)が10年半ぶりの利下げに踏み切ったのに続いて、9月12日にはECBが18年末に打ち切ったばかりの量的緩和(国債などの買い入れ)を11月から再開すると発表しました。

ECBが緩和を再開するのは、米中の貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱交渉などが影響して、ドイツを中心に欧州経済の減速ぶりが鮮明になってきたためです。日本では欧米ほど経済減速への懸念は強くありませんが、日銀の黒田東彦総裁が「マイナス金利の深掘りも選択肢」と語るなど、どちらかといえば緩和的な姿勢を崩していないのが実情です。

前述したように、日銀とECBはすでにマイナス金利という異例の金融緩和策を導入していますが、それでも明確な形での景気浮揚はいまだ実現していません。それを踏まえながら日本と欧州各国で国債のマイナス利回りが目立つという事実を改めて考えると、何だか意味深長な気がしてきます。投資家は日銀とECBが今後も相当に長い間、金融緩和から抜け出せないことを見透かしているのではないでしょうか。

それにしても運用難といわれるなか、よくぞここまで投資対象をあさり尽くし、リスクを抱え込んだものだという印象は否めません。しばらくは緩和的な金融環境が続くとしても、どこかで景気後退が避けられないとするならば、結局はまたしてもバブル崩壊や市場混乱が待ち受けている可能性は高いといえます。

次回はこの話題について、もう少し視野を広げながら考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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