1. いま聞きたいQ&A
Q

高齢者にまつわる経済問題について教えてください

後期高齢者の増加がもたらす金融資産の滞留懸念

総務省の人口推計によると、今年(2018年)3月1日時点の概算で、75歳以上の後期高齢者数が65~74歳の前期高齢者数を初めて上回りました。直近の概算では5月1日時点で65~74歳が1,763万人、75歳以上が1,779万人に上っていて、日本の総人口に占める割合は65歳以上の高齢者全体では28.0%、75歳以上の後期高齢者が14.1%となっています。寿命が延びていることから後期高齢者の数は現在、月間平均3万人のペースで増加しており、団塊の世代が全員75歳以上になる25年には前期高齢者の約1.5倍まで膨れ上がる見込みです

日本ではこれまで、定年退職後も元気で豊富な資産を持つ「アクティブシニア」が旅行や趣味などに積極的にお金を使うことで、個人消費のけん引役となってきました。いわば経済の活性化を高齢者に頼ってきた面もあるわけで、実際に個人消費の約半分は60歳以上の人々によって占められています。

しかしながら、身体的な衰えが強まりやすい後期高齢者が増加することで、そのような構図は次第に薄まっていくと予想されます。今後はむしろ、従来どちらかというと軽視されがちだった高齢者にまつわる経済問題に、日本の社会がどう対処していくかが真剣に問われることになりそうです。

例えば、認知症患者の急増による金融資産の「滞留」という問題。日本では株式など有価証券の多くを70歳以上の高齢者が保有していますが、保有者が認知症になると運用が凍結されたり、資産が死蔵されてしまう可能性が高まります。みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは、35年には最大で150兆円の有価証券を認知症の高齢者が保有することになると試算しています

資産管理が困難な高齢者を支える公的な制度として「成年後見人制度」がありますが、現状では金融知識に乏しい家族や弁護士などの個人が本人に代わって資産管理を行うケースが多いため、非効率かつトラブルや事故も絶えません。そんななか、課題解決に向けたアイデアのひとつとして注目されるのが、城南信用金庫など東京都品川区に店を持つ5信金が共同で始めた「しんきん成年後見サポート」(一般社団法人)という取り組みです。

これは認知症などで資産管理ができない高齢者の成年後見人を法人が受任し、信用金庫のOB・OGといった高齢者スタッフが実際の資産管理をサポートするというもの。サポート活動には信金本体の支援が得られるほか、現金取り扱いに関する信金のノウハウが活用できるため、資産管理をめぐるトラブルや事故の防止にもつながります。

今後長期にわたって貧困の高齢化が進む?

一方で高齢者の貧困、あるいは貧困の高齢化という問題も深刻さを増しています。立命館大学特任教授の唐鎌直義氏が、厚生労働省の「国民生活基礎調査」のデータを用いて推計したところ、65歳以上の高齢者がいる世帯の貧困率は09年の24.7%から16年には27.0%まで上昇していました。当該期間の7年間で貧困高齢者数は約192万人も増えた計算になります。ちなみにここで言う「貧困」とは、実質的に生活保護基準にさえ満たない収入で生活している状態を示します。

この推計からは、3世代世帯など世帯内に現役の勤労者がいる場合に貧困率が低いという実態も浮かび上がってきました。逆にいえば、息子や娘などの家族から離れて老後を送る高齢者は貧困に見舞われやすくなるわけです。なかでも16年の時点で女性の単身世帯が56.2%、男性の単身世帯が36.3%と、高齢者の単身世帯において貧困率が突出して高いことが分かります。

懸念されるのは、こうした傾向が現時点の高齢者に限ったものではなく、現役世代が将来的に高齢者となった際にも当てはまりそうだということです。現役世代の働き方として非正規雇用や短時間就労が増えるのに伴い、今後は年金保険料の拠出実績が乏しく、低年金や無年金に陥る層が増えてくると予想されます

彼ら・彼女らのなかには親の年金など家族の所得にある程度依存して生活する人も目立ちますが、いずれは親も他界する日がやってきます。主として経済的な理由から結婚せず、あるいはできず、自分が高齢になった時点で頼るべき家族もなく、年金給付も不十分な単身世帯が増えるのだとしたら、貧困の高齢化はこれから長期にわたって日本に横たわる経済的・社会的な大問題となりかねません。

予兆はすでに表れています。金融広報中央委員会の調査によると、17年現在で単身世帯全体を貯蓄の残高順に並べたとき、中央に位置する「中央値世帯」の貯蓄額は32万円で、5年前の100万円から大幅に減っていました。非正規雇用の増加などを背景に、金融資産ゼロの世帯が4割超と増えているためです。

これらは民間がアイデアを出して対処できるような問題とは考えにくく、公的年金の抜本的な制度改革など、国が何らかの形でセーフティーネット(安全網)を整備していくしか方法はなさそうです。社会の高齢化をめぐっては、社会保障費用の増大など表向きの経済問題とは別に、水面下で解決困難な構造問題がじわじわと進行しつつあることを、私たちはもう少し意識しておいた方がいいのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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