いま聞きたいQ&A

企業の生産性について、どのように考えればいいですか?

企業を投資の対象とみた場合に生産性が問題になる?

日本企業に対する批判的な評価として、海外企業に比べると生産性が低く、稼ぐ力も見劣りするといった声をよく聞きます。日本生産性本部の分析によると、2015年に日本の製造業の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)に加盟する主要29カ国中で14位となり、1995年以降で過去最低の水準となりました。サービス業も含めた日本企業全体でみると、労働生産性は90年代から今日まで主要先進7カ国中の最下位が続いています

労働生産性は「付加価値額(労働による産出)/労働者数または時間あたりの労働量(労働の投入)」という計算式で表されます。このうち分子に着目すると、商品やサービスの販売数を増やしたり単価を上げることによって付加価値額が増加し、労働生産性は上昇することになります。日本企業の稼ぐ力が見劣りするというのは、そうした販売数の増加や単価の引き上げが実現できていない点、すなわち画期的なヒット商品を生み出すイノベーション(技術革新)の不足や、デフレが続くなかで値上げに弱腰な姿勢が浸透したことなどを指摘していると考えられます。

一方の分母に着目すると、従業員数を減らしたり労働の一部を機械に置き換えることで、やはり労働生産性を上げることができます。こちらはいわゆる「働き方改革」で議論されている内容に該当するもので、労働時間の短縮はもちろん、労働市場の流動性を高めることや労働の現場にロボット、AI(人工知能)の導入を急ぐことなどが喫緊の課題として挙げられています。

さて、こうした評価や指摘通り日本企業の生産性が相対的に低いとして、その低さのどこが問題になるのでしょうか。例えば生産性の低さが、景気の拡大局面においても従業員の賃金が上がらない要因となっており、ひいてはそれが個人消費の低迷や経済成長率の低下につながっているとします。しかしながら、賃金や個人消費、経済成長率の低迷はどの先進国でもおおむね同じ状況にあるわけで、それが生産性の低さだけに起因しているわけではもちろんありません。

生産性の低さが問題となるのは、むしろ投資の対象として日本企業をみた場合ではないかと思われます。グローバルに活動する日本のリーディング企業を海外のライバル企業と比較した場合に、株式時価総額の伸び率が大きく見劣りするといった意見もよく聞かれます。要するに、生産性が低いままだと株式投資やM&A(合併・買収)などの対象として評価を得にくいという市場の論理が、日本企業への批判につながっていると考えられるわけです

生産性の高さが社会的価値に結びつくわけではない

国際基督教大学特別招聘教授の岩井克人氏は、株主主権を絶対視する米国型資本主義の弊害について次のように語っています。「米国企業がストックオプション(株式購入権)を中核とする報酬制度を導入したことによって、経営者は企業への忠実義務から解放され、株主と同様に企業を自己利益追求の道具とみなすようになった」。結果として経営者の報酬は平均的労働者の350倍にも高騰し、それが今日の米国における著しい所得格差をもたらしていると言います。

このように株主も経営者も一貫して自己の利益拡大を最優先するような環境にあれば、企業が利益の源泉である株価の上昇とそれに影響を及ぼす諸条件の改善に心血を注ぐのは、なかば当然の成り行きといえるでしょう。生産性に関する議論についても、もとをただせばそうした流れのなかから出てきたのではないかということに、私たちは注意を払っておく必要がありそうです。

日本企業が資本主義に基づいて利益追求を行っている以上、生産性が高いに越したことはありません。しかしながら、業績が悪化するたびに大規模なリストラを断行し、それで生産性の高さを維持するといった英米流の企業組織の在り方は、良い悪いは別にして、日本の社会風土には基本的に合わないものです。

また、利益拡大の持続可能性という面では、最終的には企業の社会的責任や社会貢献が問われることになるはずですが、この点についても日本と海外では考え方が異なります。日本にはかつて近江商人が誇った“三方よし”(売り手よし、買い手よし、世間よし)の伝統がありますが、例えば米国の市場関係者の目には「日本企業の経営者は社会との共存を語るだけで、それで稼ぐという発想がない」と映るようです。

企業価値という観点からみると、企業の生産性や稼ぐ力は「経済的価値」のひとつとして重要ではあるものの、それらがそのまま「社会的価値」に結びつくとは限りません。生産性の高さやもうけの大きさを競うあまり、企業が社会に悪影響を及ぼすケースも目立つからです

昨今の事例でいえば、日本企業では商品・サービスの安全性や信頼性にかかわる不祥事の頻発が挙げられます。米国企業については、またぞろバブルの生成・崩壊という悲喜劇の主役を演じる可能性が高まってきました。こうした振る舞いが社会全体の生産性を下げることを企業はどう考えているのか、非常に興味があるところです。

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