投資対象を理論的に選ぶ方法があれば、教えてください。
何年投資を続ければ期待リターンが実現するのか
私たちは投資対象を選ぶにあたって、どんなことを考えるでしょうか。恐らくほとんどの人に共通するのが、「自分にとって資産を増やすのに適した投資対象はどれか」というテーマだと思われます。
資産を増やすとひとことで言っても、その意味合いは千差万別です。どのぐらいの期間をかけて、どのぐらいの金額を増やしたいのか、増やしたお金は将来何に使うのか、最初に投資した資金はどのぐらい減っても構わないのかなど、人によって資産運用の目標や条件は変わってくるはずです。世の中にはこうした個々の目標や条件ごとに適した投資対象があり、それを見つけ出せば自分にとって理想的な資産運用が可能になると信じている人が意外と多いかもしれません。
このテーマについて、確率統計学的に実証されている投資理論の観点から考えてみましょう。例えば、国内外の金融資産ごとに期待リターン(横軸)と推計リスク(縦軸)の相関関係を表した図をイメージしてみると、ローリスク・ローリターンの国内債券からハイリスク・ハイリターンの新興国株式まで、さまざまな投資対象があたかも私たちの資産運用ニーズにのっとるような形で右肩上がりにきれいに並んでいます。
こうした図を見る限り、私たちは投資のリスクとリターンを自分の裁量で自由に決められるかのような印象を受けますが、それは大きな誤解です。投資理論でいうところの期待リターンと推計リスクがいったい何を意味しているのか、いまいちど確認しておいた方がいいでしょう。
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●期待リターン
=さまざまな金融資産について過去のデータを検証し、1年間など一定の期間中に得られたリターンの平均値を求めたもの -
●推計リスク
=上記の平均リターンから見て、過去に記録された実際のリターンが上下にどれぐらい“ぶれて”いたかを検証し、その「ぶれ幅」の平均値を求めたもの
これらの平均値は、あくまでも過去の長期的な市場データをもとに割り出された数字です。それを使って将来的なリスク・リターンをどこまで予測できるかというと、私たちがこれから長期間にわたって金融資産への投資を継続した場合に、「おおむねその水準に収束する」という程度のことに過ぎません。加えてやっかいなことに、いったい何年間投資を継続すればリスク・リターンが平均値に収束するのか、現段階では誰にも分からないのです。
投資成果は運や偶然に左右される部分が大きい?
期待リターンと推計リスクの関係は、複数の金融資産に分散投資する場合にもあてはまります。分散投資にはリターンを安定化させる効果のあることが理論的に知られていますが、これについても実際の投資に適用するのは難しいのが現実です。過去の研究から、分散投資による投資成果の80~90%は資産配分比率によって決まることが分かってきましたが、例えば今後10年間や20年間でどのような資産配分比率が最も有効かについては、同じく現段階では誰にも分からないのです。
つまるところ、投資にあたって理論的なアプローチをどれだけ試みてみたところで、実際の投資成果は意外にも運や偶然に左右される部分がかなり大きいと言えそうです。だとすれば、私たちも思い切って発想を転換する必要があるのかもしれません。
多くの人にとって投資期間や目標金額、将来的なお金の使途などを事前に決めることは本当に必要なのでしょうか。むしろそれらを決めるからこそ、投資した資産の価値が一時的にでも大きく減ると耐えられなくなるのではないでしょうか。
目標金額を決めることの弊害については、経済評論家の山崎元氏による次のような意見が参考になります。「目標額を設定すると、それに合わせて人は目標の運用利回りを設定するようになる。そこから過剰または過小なリスクを取るという、不適切な運用方針を選択する悪弊が生じやすい」
ちなみに山崎氏はずいぶん以前から、細かな投資配分比率の調整よりも金融商品に対して無駄に高い手数料を払わないことの方が重要だと指摘しています。すなわち、投資対象を選ぶ際には将来の不確実な投資成果を皮算用するよりも、現時点で確実に見えているコストを重視して臨むべしという考え方です。投資対象の候補としては当然、国内外の株価指数に連動するタイプのインデックス型株式投信などが挙がってきます。
コストを重視して、なおかつ多少は投資理論にもこだわりたいという人なら、理論値である期待リターンが実現するまで、インデックス型株式投信への投資をひたすら継続するという手も考えられます。ただし、リターンの低迷が続いてなかなか期待リターンにたどりつかない可能性はありますが。